研究課題/領域番号 |
16K03042
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
羽賀 祥二 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (30127120)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 郷土史家 / 地誌 / 郡町村誌 / 津田応助 / 郷土資料文庫 |
研究実績の概要 |
本研究は、明治中期から戦前期にかけて編纂された郡誌・市町村史の調査、及びそれに携わった郷土史家の活動とその遺産を調査・研究することを目的としている。本研究では、特に愛知県・岐阜県の二つの県を対象にしており、平成28年度においては、愛知県内の郷土史家・郷土誌の調査と研究を実施した。年度内における作業の概要は次の通りである。 (1)戦前から戦後にかけて愛知県を中心に活動し、多くの郡誌・町村史編さんに従事した津田応助の残した資料を調査し、小牧市図書館に所蔵されている「象山文庫」の重要資料の撮影を実施し、画像データの分析をはじめた。また、「象山文庫」は小牧市図書館で一応の目録がは作成されてきたが、いまだ目録未掲載の書簡類などがあり、この調査を進めていくことで、小牧市図書館と協議した。 (2)愛知県内の地誌・郡町村史に関して、特に明治期の郡誌の記述内容について検討を加え、その成果の一部を『愛知県史 通史編近代Ⅰ』において発表した。 (3)日本における地誌編纂は中国の影響を多大に受けているが、中国における地域史研究に関する知見を深めるために、中国海洋大学マスコミ学院の日本研究者及び青島市档案館の研究者と交流する機会を持ち、地域史資料や研究の現状について教授を得た。また、中国海洋大学における日中文化交流に関するシンポジウムでは、「明治維新と中国」と題して報告を行い、近世後期における中国地誌・中国政治思想が幕末維新期の政治改革に与えた影響を論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度には、主として愛知県小牧市図書館所蔵の「象山文庫」の調査と一部史料の撮影、デジタル化の作業を行い、「象山文庫目録」に掲載されている重要資料の撮影が出来たが、まだ撮影すべき資料、目録未掲載の資料が残されており、悉皆調査まで至らなかった。また、岐阜県の可児市郷土館所蔵の「神谷道一文書」について調査・撮影を計画していたが、平成28年度には着手するまでには至らなかった。しかし、平成29年3月に刊行された『愛知県史 通史編近代Ⅰ』には明治期を中心として名所図会・郡誌などの分析を行い、そうした地誌類から見た近代尾張地域の歴史的環境や特性について検討を加え、公表することが出来た。他方、本研究は近世の地誌編纂に与えた中国の文化的影響を測定することを課題の一つとして掲げているが、平成28年度においては中国海洋大学や青島市档案館の研究者との交流を通じて、中国における地域史研究の歴史と現状に関する知見を得ることができ、また今後の研究交流の窓口を作ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度においては、次のような取り組みを行って、研究実績をさらに上げるように努めていきたい。 (1)小牧市図書館の「象山文庫」の撮影作業を継続するとともに、目録に掲載されていない未調査の資料の目録化の作業を進め、文庫の全容の解明する。 (2)また、岐阜県可児市の可児郷土館所蔵の「神谷道一家文書」の調査と重要資料の撮影を進める。神谷は幕末明治期の岐阜県を代表する郷土史家で、同時に郡長を長く歴任した地方行政官僚である。研究担当者はすでに明治期に愛知県西加茂郡で郡長を長く務め、『西加茂郡誌』などを編纂した郷土史家・田中正幅に関して調査を行い、研究論文を『豊田市史研究』に掲載したことがある。神谷は田中と同様な立場で郷土史研究を行った歴史家であり、地方行政と歴史編纂との関係を明らかにする恰好の人物である。こうした観点も踏まえて神谷文書の調査・研究を実施する。 (3)中国における郷土史家についての知見を深めるために、今年度は中国の華東師範大学の王暁葵教授とともに、中国天津・唐山の調査を実施する。この地域は1976年の唐山地震によって甚大な被害を受け地域であり、地震などの歴史災害が地誌などにどのように記述されてきたのか検討したい。なお、天津における調査に当たっては、天津の南開大学日本研究所の宋志勇教授の協力を得ることにしている。 (4)これまでの研究を中間的に総括するために、近現代史研究会の場を借りて、10月にシンポジウムを開催する。テーマは「郷土史家の仕事とその遺産」と題し、近世~近代の地誌の代表的研究者である筑波大学の白井哲哉教授を招いて郷土史家の史学史的位置に関して報告してもらうと共に、「象山文庫」を管理している小牧市図書館長山田久氏及び「神谷道一文書」に詳しい美濃加茂市民ミュージアム館長の可児光生氏の報告によって、郷土史家の歴史的評価の糸口としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に計画していた岐阜県可児市郷土館における調査と撮影が実施できず、次年度に持ち越した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度において「神谷道一文書」の調査及び主要資料の撮影に使用する予定である。
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