研究課題/領域番号 |
16K03043
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岩崎 奈緒子 京都大学, 総合博物館, 教授 (80303759)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 海防 / 世界認識 / 境界 |
研究実績の概要 |
今年度は、論文執筆と史料分析の二つの作業を進めた。 まず、論文については、計画に掲げた第一のテーマの論文執筆を行った。具体的には、対ラクスマン外交において幕府が主張した異国船打ち払いの「国法」が、ロシアに対して蝦夷地の外部性を顕わにするとともに、異国船からの上陸が外交上の焦点と化したことを検証し、前者については、蝦夷地直轄の過程が蝦夷地における打ち払いを可能とした点で、「国法」の範囲を拡大し、文化期のゴローニン事件解決のための外交交渉においてロシアにも容認されるに至ったこと、後者については、寛政期以降、国内法の整備が進むとともに、ヨーロッパの勢力を受け入れない領域として「国土」の観念が醸成されていったことを解明した。 史料分析については、「蝦夷地一件」の京都大学文学研究科蔵本と内閣文庫蔵本との比較検討を行った。「蝦夷地一件」は、本来7冊から成るとされるが、2冊は不明とされ、内閣本の5冊のみが知られてきた。研究の結果、京大本も同じく5冊から成るが、内閣文庫とは3冊のみが内容で、長く不明とされてきた2冊が含まれていることが判明した。「蝦夷地一件」は、18世紀末以降、近世日本の人びとの世界認識を転換させ、異国船の打ち払いとして顕現する政治・外交に大きな影響を与えた史料である。これまで失われてきた2冊の発見は研究史上大きな意義があるところから、現在、翻刻を進めている。この成果は研究報告としてまとめ、学界共有の資源としたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究期間の大半が館長職にあったため、研究が遅滞したが、今年度は遅れを挽回すべく、努力したところである。
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今後の研究の推進方策 |
異国船打ち払いは近世後期の近世日本にとってきわめて重要な意味を持つ歴史的事象である。次年度は、今年度の研究の成果を組み込んだ著書を出版するとともに、翻刻した史料を研究報告書として刊行し、今後の研究の展開の基盤を作る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
館長をつとめたことに伴い研究が遅滞したため、研究期間の1年延長することとなった。 今年度は調査のための出張及び研究報告書の刊行により、使用する計画である。
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