今年度は、「近代天皇制と「史実と神話」―代替わりに考える」(『世界』929号、2020年1月)を公表し、天皇制形成とともに大嘗祭が始まる7世紀後半から現代まで、代替り儀式を歴史的に捉えるとともに、21世紀の「史実と神話」の曖昧化の問題を、世界遺産・日本遺産や大嘗祭解釈において考察した。さらに、共編で『博物館と文化財の危機』(人文書院、2020年2月、全194頁、5本の論考)を刊行し、そのなかの「文化財と政治の近現代」において、御物・陵墓・御所・離宮など戦前の皇室財産の系譜を引く文化財が天皇制の神話性を補強してきたことを指摘し、代替り儀式と同様の問題があると論じた。国立国会図書館憲政資料室や三の丸尚蔵館で宮内省関係史料や美術の調査を行い、代替りにともなう2019年の皇居の大嘗宮や八木町の主基斉田、1928年の主基斎田の福岡県脇山の現地調査をおこなった。また考古学の今尾文昭氏と、7世紀の天皇制や大嘗祭の成立の場である飛鳥浄御原宮や、紀元2600年紀念事業が展開した宮崎神宮や高千穂の現地調査もおこなった。京都府立歴彩館や奈良県立図書情報館で、近現代の大礼や陵墓、文化財に関わる史料調査をおこなった。 研究期間全体を通じて、編著『近代天皇制と社会』(思文閣出版、2018年)に代表されるが、代替りをはじめとする天皇制が社会へ浸透する段階制、2019年に世界遺産となった陵墓の明治維新以来の「秘匿」する管理形態の変遷、泉涌寺を分析した神仏分離と皇室の仏教信仰の実態、陵墓・南朝史蹟・神武聖蹟などの「名教的」な文化財が天皇制の神話性に重要であった点などを明らかにした。代替り儀式に関しては、近世・近現代の研究史を踏まえて、近現代の文化財や歴史意識の問題なども含め、複合的観点から研究した。一貫して、代替り儀式を近代の政治や社会との関わりで考察しようとした。
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