前年度までに国立国会図書館憲政資料室で調査・収集した「有末精三関係文書」、防衛省防衛研究所で調査した戦後陸軍及び有末機関に関する関係史料などを精査・参照しながら、有末精三の自筆史料2点(『横浜機関書類』『備忘録』)の解読と分析を完了し、予定通り原本の写真と翻刻とを対照させた解説付きの『報告書』(A4版・371頁)を作成することができた。またこの間、この時代の専門研究者との意見交換を行い、国立国会図書館で追加調査を行った。 研究論文の執筆については、予定を早めて前年度に公表している(「『有末機関』についての覚書」『神戸大学文学部紀要』45号、2018年3月)が、その後把握した内容を踏まえて、新しい論文の執筆準備を行った。『報告書』については、その公開方法について史料の原蔵者と間で協議、調整を行っているところである。 有末機関と陸軍本省との連絡のあり方(アメリカ軍の拠点が横浜にあった期間には、有末を長とする横浜連絡機関の連絡相手が陸軍省軍務局軍務課であり、その連絡に当たっては憲兵司令部が一定の役割を果たしていた)、復員する軍人の生活支援(「(職業)補導会」という組織が立ち上げられたが、アメリカ軍によって軍人が指導することが否定され厚生省の主管になった)など、今後引き続き検討を要する課題も明らかにできた。また、アメリカ軍が日本軍による暗号解読、細菌兵器開発(関東軍防疫給水部、通称七三一部隊)、風船爆弾作戦(ふ号作戦)に関心を持ち、詳しい資料の提出と関係者への聞き取りを求めていたことは昨年度の段階で把握できていたが、細菌兵器開発については海軍の関係に触れる記述もあり、この点は引き続き注視していきたい。
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