山形県高畠町の旧家に所蔵されていた「武元流剣術実録」を写真撮影して解読し、内容の分析を始めた。その結果、百姓身分の村役人家の子息が剣術修行を積んで武芸の達人となり、自宅に道場を開いて近在の百姓たちを集め、また米沢藩・天童藩の家臣たちを門弟にしていたことが判明した。百姓身分の者が、少なくない武士の剣術指導をおこなっていたのである。
江戸時代は士農工商の世界で武芸は武士身分の特権だと理解されてきたが、社会の実態はまったく異なっていた。百姓身分でも武芸の修練をする傾向が広くみられたことが出羽国でも実証できた。従来の近世身分制を根本から見直す重要な実証的成果を得ることができた。
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