研究課題/領域番号 |
16K03055
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研究機関 | 常磐大学 |
研究代表者 |
平野 哲也 常磐大学, 人間科学部, 准教授 (50735347)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 内陸水運 / 海村 / 地域間交流 / 生業連関 / 地域経済圏 / 百姓の行商 / 国益通船計画 |
研究実績の概要 |
本研究は、近世の下野国と常陸国の村々がいかなる交易・交流を行い、どのような関係(経済圏の形成)を築き、それぞれの地域をいかに変化させたか、解明するものである。2018年度は、栃木県立文書館・茨城県立歴史館・国立公文書館などで史料の閲覧と写真撮影を行った。また、下野国の那珂川上流、下野国から常陸国に及ぶ小貝川・鬼怒川中流域、常陸国の笠間川(涸沼川)・涸沼・大谷川・鉾田川流域など、江戸時代に下野国の有力百姓によって舟運路の開削が構想された領域・地点の現地調査・景観観察を重ね、古文書の内容との突き合わせを行った。 とくに、下野国芳賀郡小貫村の地主・名主小貫万右衛門が文化・文政年間に企図した内陸水運網の整備・拡大計画については、以下の点を明らかにした。万右衛門は十分な調査・情報収集の上に、まず地元の小貝川を使った「国益通舩」(小貝川から鬼怒川・利根川を通じて江戸へ至る舟運路の開通)を構想し、下野国東部の物流の活性化と山林資源の商品化を図る。その後目を転じ、近接する常陸国宍戸藩領から流れ出す涸沼川を通じて涸沼に至る舟運路の開削を目指す。その計画を発展させ、大谷川の掘割(涸沼に流れ込む大谷川と北浦に流れ込む鉾田川を結び付け、涸沼川から江戸へ至る水路を創出し、下野東部と常陸北部を水路で江戸と直結させる)を画策する。万右衛門は、そのために「国益」を掲げ、通船事業の多面的効果を強調し、宍戸藩・水戸藩や流域の町・村の有力者、江戸や水戸の商人、仙台藩の御用商人などと盛んに交渉し、資金を集め、官民一体の協同事業に練り上げていこうとする。これにより、在地の有力百姓が山師的な性格を帯びつつ、地域益の拡大を具体的に構想し、領主に献策していく時代の特質を解明した。同時に、計画が頓挫した原因についても、計画の内容と時代状況を重ね合わせて考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
成果報告書に収めるべき史料の翻刻はほぼ完了しており、内容の大意はつかめる状態にある。しかし、破損がひどかったり、難読文字があったり、判読しきれない箇所が多く残ってしまっている。そうした史料については原本照合による文字の確定作業が必要だが、それを進めることができなかった。そのため、関連資料を多数掲載する予定の報告書の発刊に至らなかった。 また、史料を解読しているうちに、小貫万右衛門の通船構想に関わるキーマンとして、江戸の商人や仙台藩の御用商人の具体的な名前が確認された。そうした人物に関する補充調査も考えたが、それを果たせなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、これまでに収集した史料の掲載を中心とする報告書を発刊する。翻刻史料の中に残っている未読・判読不明文字を極力確定し、精度の高い史料集に仕上げる。下野国と常陸国の横断的な商品流通・交流に関する史料のさらなる収集・分析も進める。未使用の経費は、主に報告書の印刷費に充てる。 また、小貫万右衛門と深く関わった江戸の商人や仙台藩の御用商人を追跡するために、東京や仙台での史料調査を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた写真撮影・資料整理作業への学生アルバイトの雇用をせず、基本的に研究代表者1人で調査を進めたことで、人件費を執行することができず、未使用額(次年度使用額)が生じてしまった。その分は、2019年度において報告書の作成費用および栃木県・茨城県・東京都・宮城県での補充調査費用として使用する。
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