研究課題/領域番号 |
16K03056
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研究機関 | 麗澤大学 |
研究代表者 |
櫻井 良樹 麗澤大学, 外国語学部, 教授 (90211268)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 華北駐屯軍 / ワシントン体制 / 満洲事変 / 盧溝橋事件 |
研究実績の概要 |
本年度も、文献調査と史料収集を中心に行った。文献調査は、イギリスの中国駐屯軍の動向をまとめた書籍(British and Indian Armies on the China Coast)をもとに、イギリス軍の動向の全体像を確認した上で、後述するイギリス調査を行った。ただし外交政策との関係についてはほんど書かれていなかった。史料収集としては、支那駐屯軍を引き継ぐこととなった第27師団関係資料(『第27師団のあゆみ』『第27師団会の記録』『第27師団会25周年記念誌』『支駐歩三会会誌』『支駐歩一会々報』など)を中心に収集したほか、盧溝橋関係の公表パンフレットを(東洋協会調査部『蘆溝橋事件の経過概要』)を得ることができた。史料調査(国内)では、札幌市立中央図書館で、盧溝橋事件後に天津警備を担当した独立歩兵第27大隊の関係記事をコピーで収集するとともに、宮崎県都城駐屯地資料館で大正9年の漢口派遣部隊の記念写真を発見した。 史料調査(海外)は、イギリス、フランス、フィリピンで行った。ロンドンでは大規模改修を終えたNational Army Museum(国立陸軍博物館)の文書館で、華北駐屯軍兵士のアルバムを探し出して写真で収集した。展示資料は、軍事に関する主題別の展示と変化しており、関係するものはなかった。公文書館では、閲覧した外務省および陸軍省文書(WO32/2535、WO208/2865)から、日中戦争勃発以前から撤退が議論されていたこと、1940年の天津からの撤退が、中国全体からの撤退へ発展していったことがわかった点が成果であろう。フィリピンでは、アテネオ大学リサール図書館のアメリカ歴史コレクションとアヤラ博物館図書室、フィリピン大学中央図書館、国立図書館で関係文献の調査を行い、当該期の在比アメリカ軍の情況と華北に派遣されたアメリカ軍に関する基礎的文献を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
史料調査は、ゆっくりながら進んでいるが、予定までは完了できなかった。国内調査は2度行い、それぞれ有益な史料を得ることができた。海外調査については、当初予定していた夏期と春期の調査は時間的制約からできなかったが、秋に調査を行い、再開されたNational Army Museumを訪問し、イギリスの華北駐屯軍および日本の華北駐屯軍関係の写真などを収集することができた。また国立公文書館では、FO391の中国関係でマイクロ化されていない部分について、1931年の残りの一冊に、天津事件関係と溥儀の動向に関するファイルを得られたほか、1930年に取りかかり15冊見るも、時間切れで後は次の機会に回すこととした。1930年末の鉄道保護分担区域の廃止問題に関する史料を探り当てることは、まだできていない。本課題に関する海外調査は、一週間程度であったため、海外調査予算を使い切ることができず、翌年度に課題を回すことになった。 パリの陸軍博物館で、海外植民地におけるフランス軍関係の展示を見学したが、現在、その駐屯意義を平和構築(peacemakers)という表現で位置づけていることを知れたのは予想外の収穫であった。その他の国の駐屯軍について、特にイタリアの駐屯軍史料について探ってみたが、まだその所在すらわかっていない。 文献調査を通じて、幕末維新期における英仏の横浜駐屯軍の撤退と華北駐屯軍の長期駐屯を比較し、そこに条約的根拠の有無という条件の違い、撤退を導いていく日本と中国政府の方法の違い(中国における革命外交の意義づけ)という観点から分析することが、本課題においても有益でることに気づいた。 成果としては、日本華人会議主催の盧溝橋事件80周年国際シンポジウムで報告を行い、それをもとに論文を発表した。書籍出版に向けた執筆には着手できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、引き続き国内・海外文書館等の史料調査を行い、『華北駐屯国際軍と日本』というようなタイトルで成果をまとめる作業を年度中に開始することを予定している。本の構想は、国際軍としての歴史・役割・機能、日本駐屯軍の概説史、英米を中心とする各国駐屯軍、義和団体制とワシントン体制、アメリカおよび中国と日本の確執、撤退と体制の崩壊というような内容になる予定である。 国内調査は、自衛隊駐屯地内資料館と県立図書館などで随時行う。海外調査は、夏期と春期に2回行う。イギリスでは、平成29年度に十分に行えなかった国立公文書館所蔵のFO391の中国関係でマイクロ化されていない部分(1927-1931年)の内、1930年の残りの部分および1929年について引き続き取り組み、鉄道保護分担区域の廃止問題に関する史料を探り当てたい。また租界関係の文書を扱うFO228の1930年以後のファイルを捜すこともできていないので、それを行いたい。アメリカ関係では、公刊史料集(Foreign Relations of the United States)をふまえて、それに関連する史料を探り当てたい。 華北のイギリス駐屯軍は、香港司令部の下にあったことから、関係文書は香港の公文書館にも所蔵されている。またFO391の内、1937年以後のマイクロフィルム化されている部分について、使い慣れている香港大学図書館で閲覧する。 さらに他国駐屯軍の動向については、一昨年行ったドイツ軍事公文書館の補充調査を行うことができればと考えている。その他の国については、引き続き資料調査の可能性を探っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度研究費は、備品費12万円、旅費100万円、人件費6万円、その他2万円で総額120万円という予算を組んでいた。実際の総支出額は76万円余りであり、もっとも大きい部分は旅費の57万円であったが、予定より下回り40万円近く残した。これはもとの計画ではイギリスとアメリカ訪問を予定していたが、実際に行えたのは、時間的な制約からイギリスとフィリピンでの調査であり、時期的にも航空運賃が安い時期と期間が短かったため費用がかからなかったためである。 平成30年度研究費の当初計画は、備品費12万円、旅費70万円、人件費6万円、その他2万円で総額90万円であったが、平成29年度の残額約43万円を合わせて、本年十分に行えなかったイギリスおよびアメリカ調査のための旅費として使用したい。また一昨年行ったドイツにつける調査の補充調査(たとえばRM16膠州湾関係の軍史料)や、香港での調査が可能であれば行いたい。
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