今年度の研究成果は、地域経済の発展の中での都市にみられる打毀しと、そのモラルエコノミーの問題(「品川宿の打毀しと地域社会」)。近代の議論だが塩田浜子の雇用形態について(「明治中期における浜子の雇用形態」)、博覧会が産業発展にもたらした影響を明らかにした「近代桐生塩業の展開と森山芳平」がある。また、現在における徳島の和三盆糖についてのヒアリング調査結果(「徳島和三盆糖の現在」)、産業史全体を展望した『郷土史大系(生産・流通編)』(編著者として)の刊行などがあった。 これらの成果から、近世中後期における諸産業は、国内での再生産が一定程度可能な状態にまで成長してきているということ。ただ、その反面、米穀生産が不足する状態は変化しておらず、これが、打毀しなどにも結び付いていることが明らかとなる。本年度は、近代にも触れた。特に、近代以降になると、博覧会や共進会など開かれた技術交流が行われている。この点から考えると、近世における技術交流の可能性の低さ(結果として、江戸・大坂などでの薬品会などの開催や、書物に頼らざるを得ない状況)が指摘することができる。 また、「徳島和三盆糖」は、近代以降に海外からの砂糖輸入が増加し、白砂糖や精製糖では競争できない中、品質向上が図られて和三盆糖として今日まで続くことになる。和三盆糖自体は世界的にも優れた品質といわれているが、和三盆糖自体の価格の高さが問題で、存続が危ぶまれている。こうした現在の課題を考えつつ、その原点としての砂糖国産化によって登場した白砂糖生産を考える視座を示したものとなっている。
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