課題とした近世朝廷の商業・経済面からみた都市的基盤について、本年度の成果は大きく分けて2点である。 1点目は、京都の豪商と朝廷の各種の関係について、多角的に解明したことである。 具体的には、①朝廷・幕府の会計部門とその御用を請け負う両替商の関係、この関係が明治維新後の新政府財政にもった意義。②豪商の複数の当主が朝廷の各種の下級役人(地下官人)となり、また朝廷側の引き留めにも関わらずそれを辞職する事例。③式内社の復興と祖先祭祀、江戸の支店と特定神社との関係、神道の本所である堂上公家吉田家の権威をかりたこれらの荘厳化。④陰陽道の土御門家による豪商のための祈祷。⑤これらの関係が、いずれも巨大経営体内部の権力闘争、内紛と統合の動きと密接にかかわっていたこと。これらについて、三都に店舗を展開する近世最大級の商家三井家(呉服屋・両替商)を事例に具体像を解明した。これは天皇・朝廷研究と都市史・経済史、さらに宗教社会史にまたがって、具体的な関係性のひろがりを解明した成果であり、近日刊行予定の書籍によって公表する予定である。 2点目は連携研究者による成果で、京都における金融業者と朝廷構成員の関係についての新たな史料群の分析である。五摂家の一つ鷹司家に幕府から与えられた運用資金(名目金)をあつかった茶染屋五兵衛なる商人の貸付文書群から、貸付の規模・傾向・変化を明らかにし、近世後期に長年関白をつとめ朝廷を支配した鷹司政通の権力基盤との関係性について検討した。公家と商人の金融・財政面における関係は、従来断片的にしか明らかになっておらず、開拓的な研究といえる成果であり、全国学会での口頭報告に加え、研究成果を学会誌(既刊)および書籍(近日刊行予定)によって公表する。
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