イラン近現代の歴史は、大きく言ってナショナリズム、イスラームそして社会主義の3つの思想潮流とそれを具現化せんとする勢力との相克と交錯によって彩られてきた。本研究の目的は、各種形態を取るナショナリズム、及びこれまた種々のバージョンとして現前化してきたイスラーム主義の華々しい喧伝と覇権的な地位の陰で、ともすると双方の陣営からは等閑視され、また現在もされている社会主義潮流の源流に遡行を試みるものである。具体的には、恐らくアジアで初めて「社会主義ソヴィエト共和国」樹立を宣言した、いわゆる「ギーラーン共和国」の盛衰に焦点を当てる。 研究期間の延長が認められた今年度は、イランに調査出張を行い、滞在期間は短かったものの、イラン外務省文書館・資料サーヴィスセンターを訪問し、「ギーラーン共和国」に関連する外交文書の若干を閲覧、文書コピーが原則困難であったため時間の許す限りで必要な文書につき書写を行った。またテヘランでは近現代史に関する新刊書などを収集した。研究全体の締めくくりとしては、求められる研究達成水準からすれば低いが、「第一次世界大戦と地方政権の興亡」と題する1章を、2020年秋には刊行予定の八尾師誠編『イランの歴史を知るための50章』(明石書店)に公刊する予定である(出版元が公刊確定としている)。この章は、一般向けではあるが、ドイツ、オスマン帝国などの同盟国側と、イギリス、ロシアなどの連合国側がイランを舞台(一部戦場)としてせめぎ合う危機的な様相の只中から、ジャンギャリー運動やそれを基盤にして「ギーラーン共和国」樹立が試みられた歴史的な絡みを、最近の研究を踏まえて描出した。
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