本年度は、ハイデルベルグ大学(ドイツ)、ヤゲヴォ大学(ポーランド)、ボローニャ大学(イタリア)、フィレンツェ大学(イタリア)に赴き、所蔵される資料の調査を行うことができた。特にハイデルベルグ大学においては、Harald Fuess教授の紹介の下、Enno Giele教授(中国学研究所)とお会いすることができ、有益な情報を得ることができた。また、これまで得たいくつかの成果について、9月にハイデルベルグ、11月にボローニャで発表をすることを認められ、美術史、哲学などをふくむ多くの研究者からのアドバイスを得ることができた。 また、これまでの調査や今年度の発表の機会と助言を通して、ヨーロッパにおける所蔵漢籍を調査しその意義の大きさを考えると同時に、並行して「文物・公文書」の存在とその視覚的意義も理解する必要があると考えるようになった。特に漢字文化圏ではない地域においては、知識人達の中国認識への影響は本来重大であるはずだが、元来は特に美術史家などにこそ着目されてはいたものの、まだまだ中国近世文物の所蔵状況という観点からの基礎研究、またその意義として研究分野はあるという見通しを持った。そのため、まず近世中国国家の公文書などが最も影響力を持った近世日本を一つの事例として、上杉神社に残る明朝箚付を材料に、これが日本に与えた影響を論文化した。そこで明らかにした、近世中国王朝から発給された公文書の改作やそれを自己の権力の一つのよりどころとする発想は、アジア的なものと見なしてよいかどうかを含めて、今後の研究の土台となるものと考えている。
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