当該研究課題の1年目にあたる本年度は、当初の計画通り、中央アジア王権のスンナ派イデオロギーと諸政策をおもな考察対象とし、これに関係する史資料の収集とその分析に取り組んだ。 2016年8月に実施したウズベキスタンにおける史料調査では中央アジアのスンナ派ウラマーが著した宗派論にかかわる諸著作やブハラにおける宗派関係にかかわる各種文書等、いくつかの重要史料の複写を入手することができた。これらのほか、すでに入手済みの史料や最新の研究文献を併用しながら分析を進め、計5本の研究報告を行った。 とくに「ブハラ・アミール国の司法:政治体制とのかかわりを中心に」および「ブハラ・アミール国の法空間の変成:自存からロシア統治下へ」の2報告では、スンナ派イスラーム政権としてのブハラ・アミール国の政治体制と司法制度、また具体的政策を18世紀後半から20世紀初頭までを対象として検討し、君主権と司法との関係性や、独立政権から保護国への地位転換にともなってそこに生じた変化の諸相というこれまで十分に明らかにされていない問題に関し、いくつかの新たな知見を提示した。また、「ロシア宗主権下ブハラのイラン人:とくにその法的・社会的地位について」および「ブハラにおけるスンナ派・シーア派関係:イラン人の動向を中心に」の2報告では、ブハラ王権のスンナ派イデオロギーがその治下にあるイラン人の地位や活動にいかなる影響を与えたのかをいくつかの新規利用史料に依拠して跡づけた。さらに、「ブハラ・アミール国とヒヴァ・ハン国の勅令」と題するセミナー講読を通じて、両国の勅令にスンナ派・ハナフィー法学派の法的諸規定がいかに反映しているのかという問題にも光を当てた。 これらの成果は、中央アジア・イスラーム王権の特質を抽出し理解するという当該研究課題の目的の達成に寄与し、かつ次年度以降の研究遂行のための基盤を提供するはずである。
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