当該研究課題の2年目にあたる本年度は、中央アジア王権下のイラン人をおもな考察対象とし、これに関係する史資料の収集とその分析に取り組んだ。 当初予定していた史料調査には本務校における業務等のためにかならずしも十分な時間を割くことができなかったが、二度のウズベキスタン出張の機会を利用して、タシュケントのナヴァーイー名称国民図書館でロシア帝政期の各種公刊文献を閲覧し、ロシア保護領期ブハラ・アミール国のイラン人の活動に関する情報を得たほか、ブハラ国立建築・芸術保護区博物館所蔵の展示物を視察し、彼らの生活・文化にかかわる各種用品類をつぶさに観察することができた。同時に、すでに収集済みのブハラ・アミール国期の写本・文書史料の分析を進めるなかで、当初予想していたとおり、アミール国のイラン人をその法的・社会的地位という観点から3種に大別し特徴づけることができるというたしかな見通しが得られた。 アミール国統治下でイラン人の置かれた地位は、同国の政治・社会状況およびその変容と密接にかかわっていたことも史料から確認される。それとの関連で、アミール国の首府ブハラと政権主宰王朝たるマンギト朝との関係、および、マンギト朝の支配の正統化の問題に関して、「聖なるブハラの創成:近世中央アジアの政治権力と都市」、および、「マンギト朝における君主号の変容:ハンからアミールへ」と題する口頭発表を行った。 これらの成果を整理・統合し、かつ次年度に重点的に取り組むべき宗派関係の検討を合わせていくことで、マイノリティとしてのイラン人のユニークな政治・社会的活動の実態や、中央アジア・イランにまたがるスンナ派・シーア派関係の諸相を跡づけることが可能になるはずである。
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