研究課題/領域番号 |
16K03075
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
太田 信宏 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (40345319)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | インド史 / 藩王国 / マイスール王国 / カンナダ文学 / 修辞学 / 宮廷文学 / 植民地的近代 |
研究実績の概要 |
本研究は、植民地インドの有力藩王国のひとつであったマイスール藩王国における現地語カンナダ語による文芸・学芸に着目し、それらの文献に見られる王の権威と権力をめぐる言説を分析する。 5年目にあたる本年度は、マイスール藩王国において19世紀から20世紀前半にさまざまな形式で著された/出版された複数のマイスール(藩)王国史を取り上げ、内容や文言の異同に着目して分析した。本研究では、現地語カンナダ語の文献を主な分析対象とするが、この分析では英語で書かれた王国史まで分析の対象を広げた。これにより、カンナダ語の歴史書と英語の歴史書との間の双方向的な影響関係が浮かび上がった。同じ植民地期であっても、この影響関係の具体的な様相は様々であり、そうした多様な関係のあり方が、変化する時代状況とどのように関係したのかは今後の課題である。 また、これまでの分析で、藩王(家)を巡る文学的語りのなかで感情や共感が重要な役割を担うようになったことを明らかにしたが、本年度はそうした感情や共感を重視した語りの特徴と、その起源について、さらなる分析と考察を行った。初期植民地期にマイスール藩王国を含む南インドを統治したイギリス植民地官僚の政策や著作には、スコットランド啓蒙思想の影響が色濃いことが先行研究によって指摘されている。あくまでも仮説の段階ではあるが、共感を重視するスコットランド啓蒙思想が、植民地官僚の著作などを通じて、藩王(家)を巡る現地語カンナダ語の言説に影響を与えたことが考えられる。これについては、研究会で口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題を遂行する過程で、想定を上回る多様な関連文献があることが判明し、それらの分析と考察の結果を論文として取りまとめることに、当初予定していた以上の時間を費やすことになっている。また、新型コロナ・ウィルス感染症の世界的な拡大により、インド現地での補足的な調査を実施できないことも、遅れの要因となっている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの分析と考察の結果を、研究ノートや論文のかたちで公開するとともに、本研究課題の最終目標である藩王国における近代のあり方を考察し、研究全体を総括する。新型コロナ・ウィルス感染症の今後の推移を見ながら、可能であれば、インド現地で補足的な調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)補足的な資料調査と成果の一部発表を兼ねて、インドへの出張を計画していたが、新型コロナ・ウィルス感染症の拡大により、出張をとりやめたため。 (使用計画)新型コロナ・ウィルス感染症の今後の推移を見通すことは困難であるが、状況が許すのであれば、補足的な調査をインドで行う。
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