植民地インドにおいてイギリスの宗主権のもとで現地権力者が支配した藩王国のひとつであるマイスール(マイソール)藩王国では、藩王の直接・間接の庇護のもとで現地語であるカンナダ語による文芸・学芸活動が継続的に展開された。その活動から生み出された「伝統的」な詩文学作品や歴史書に見られる王の権威と地位をめぐる言説や表象には、王と広範な一般臣民との感情的な紐帯の強調、王の神格化、王家の政治的可視化など、英領期以前にはあまり見られなかった要素が前面に押し出されている。植民地支配という新たな状況のもとで王の権威を再構築する試みの一環として、これらを位置付けることができる。
|