研究実績の概要 |
本研究は,マンチュリアにおける旗人官僚社会の変化,特に旗人科挙官僚とその家族の人的ネットワークの構築における変化に注目して,洋務運動期のマンチュリアにおける歴史変動を解明することを試みたものである。 一昨年度に清代後期に高級官僚として活躍した文祥とその出身一族である瀋陽正紅旗満洲瓜爾佳氏完顔氏に関しておこなった検討と,それとの比較検討を念頭に,同じ盛京出身の別の旗人官僚とその家族として,文祥の姻族となった恆泰という官僚とその出身一族である永陵正白旗満洲喜塔臘氏を採りあげておこなった検討を踏まえ,最終年度の今年度は,本研究の総括を試み,さらなる研究の進展の基礎とすべく作業をおこなった。 その内容の一端は,「清代後期満洲旗人社会のなかの科挙と婚姻――洋務官僚文祥を例に――」と題した講演で公表したが,上掲の2つの満洲旗人家族の事例からは,両者がともに,族内から科挙合格者・科挙官僚を輩出しつつ,その社会的地位を高めようと試み始め, 文人家族・科挙官僚家族としての仲間入りを試み,盛京で評判の高かった旗人官僚家族や漢人の科挙官僚家族などとの間に姻戚関係を構築しようとしたこと,さらに,科挙官僚家族となって盛京の在地社会に強く関与しつつ,その指導的な役割を担う一族としての社会的地位を確立してゆこうとする意図が示唆・推測された。 このことは,盛京旗人官僚家族のなかに生じていた変化とその背景にあった清代マンチュリアの大きな歴史変動との間の関連性や共時性について,さらに幅広くかつ詳しく検討を加える必要があることをあらためて気づかせるものである。
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