研究課題/領域番号 |
16K03079
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉本 道雅 京都大学, 文学研究科, 教授 (70201069)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 左伝 / 国語 / 繋年 / 上膊楚簡 / 清華簡 / 北大漢簡 |
研究実績の概要 |
平成29年度においては、第一に、近年の研究の進展、新資料の公刊を踏まえて、研究代表者が作成済みの『郭店楚簡』『上海博物館蔵戦国楚竹書』『清華大学蔵戦国竹簡』の電子テキストを改訂した。ことに『清華』6(2016)の鄭武夫人規孺子・鄭文公問太伯・子産・管仲・子儀、7(2017)の子犯子餘・晉文公入於晉・趙簡子・越公其事は春秋時代を扱い、本研究課題に直接的に関係する。第二に、戦国中期における春秋史認識の一端を解明するものとして、「左伝と鄭」(印刷中)を執筆した。『左伝』は春秋後期前半における晉の霸權の解体を記述の重点を置く。一方で、鄭人の発言もこの時期に集中している。『左伝』が、この時代を語るにふさわしいものとして鄭人を選好したこと、さらに『左伝』の成書が鄭の滅亡を一つの動機としたことを解明した。ついで後漢前期における春秋史認識の一端を解明するものとして「『漢書』古今人表と春秋史」(2018)を公刊した。まずは『漢書』古今人表が特定の王侯ないし事件に関連する人物を群として排列していること、春秋部分については『史記』以上に『左伝』に取材していることを確認し、後漢前期における左伝学の勃興が、春秋史認識を大きく規定したことを解明した。第三に、東方学会主催のシンポジウム「秦帝国の誕生─英語圏の研究者との対話」(2018年5月19日)の予稿「『史記』の秦史認識」を執筆した。『史記』に先立つ戦国~前漢文献の秦に関する記述を『史記』のそれと比較することで、『史記』の秦史認識の特異性を確認した。本研究課題に直接関連することとしては、まず周の東遷について、『左伝』が晉・鄭を特記するのに対し、『史記』が晉・鄭に全く触れず、もっぱら秦襄公に言及すること、ついで春秋期については『左伝』に由来する穆公に記述量が偏していることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年4月交付申請書には、研究実施計画として、第一に『郭店楚簡』『上海博物館蔵戦国楚竹書』『清華大学蔵戦国竹簡』の電子テキストの改訂、第二に春秋史を中心とする先秦史認識の推移の解明、第三に国際的学術交流を掲げた。「研究実績の概要」に上述したように、第一については、とくに春秋時代を扱った『清華大学蔵戦国竹簡』6(2016)の鄭武夫人規孺子・鄭文公問太伯・子産・管仲・子儀、7(2017)の子犯子餘・晉文公入於晉・趙簡子・越公其事について電子テキストを作成した。これらはそれぞれ『国語』に類似した短編であり、『左伝』の「抄撮」である繋年と相俟って、戦国中期における春秋史認識の展開を具体的に解明する材料となる。第二については、「左伝と鄭」「『史記』の秦史認識」「『漢書』古今人表と春秋史」の三篇の論文を執筆し、それぞれ戦国中期・前漢中期・後漢前期の春秋史認識の一端を解明した。この作業によって、前4~後1世紀のかなり長期間における春秋史認識の推移を展望することが可能となった。第三に国際学術交流としては、東方学会主催のシンポジウム「秦帝国の誕生─英語圏の研究者との対話」(2018年5月19日)の準備を進めた。Lothar von Falkenhausen(UCLA)・Robin D.S.Yates(McGill Univ.)両教授の参加が予定されており、近年必ずしも活発ではなかった英語圏の研究者との交流に基づく研究の新展開が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は本研究計画の最終年度に当たる。平成28年4月交付申請書に記した第一:『郭店楚簡』『上海博物館蔵戦国楚竹書』『清華大学蔵戦国竹簡』の電子テキストの改訂、第二:春秋史を中心とする先秦史認識の推移の解明、第三:国際的学術交流を引き続き実施するとともに、研究成果報告書の作成を進める。現時点で予定している報告書の構成は以下の如くである。〈序論〉〈第一章 『左伝』成書年代再考:『左傳』『國語』の歳星紀年〉〈第二章 戦国中期の春秋史認識〉〈第一節 『左伝』の春秋史認識:『左伝』と鄭〉〈第二節 楚簡の先秦史認識:周室東遷再考〉〈第三章 秦代の歴史記述:睡虎地秦簡年代考〉〈第四章 前漢中期の先秦史認識:『史記』の秦史認識〉〈第五章 後漢前期の春秋史認識:『漢書』古今人表と春秋史〉〈結論〉。基本的に平成28・29年度に執筆した論文に加筆改訂を施したものとするが、さらに新稿も加えたい。まず第二章については、(1)『繋年』の春秋史部分と『左伝』との比較研究、(2)『上海博物館蔵戦国楚竹書』『清華大学蔵戦国竹簡』所収の春秋故事と『国語』との比較研究を行う。とくに(1)については、『繋年』が『左伝』のいかなる部分を選好しているのかに留意する。ついで、第五章については、既公刊論文では別稿を予告した、『漢書』古今人表が取材した材料を逐一提示した上で、定量的分析を試みる。すでに『左伝』に大きく依存することが確認されているが、さらに『左伝』のいかなる部分を選好しているのかを解明する。
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