研究課題/領域番号 |
16K03080
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
夫馬 進 京都大学, 文学研究科, 名誉教授 (10093303)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 中国 / 清末 / 民国 / 訴訟 / 裁判 / 律師 / 訟師 |
研究実績の概要 |
(1)本研究課題で明らかにしようとしたのは、二つであった。その一つ、中国に近代的な律師制度(弁護士制度)がヨーロッパ・アメリカから導入される前、中国人は租界で活躍を始めた外国人律師をそれまで中国で広範に存在していた訟師との関連でどのように見ていたか、その認識にどのような変化があったか、律師についての認識が進むにつれて訟師に対する認識がどう変化したのかについては、論文「清末『申報』に見る律師観の進展と訟師観の推移」を公表した。中国語訳もすでに完成したと聞く。 (2)あと一つの課題、民国時代に入って訴訟の実態がどのように変化したのか、その中でかつての訟師はどのような位置にあり何をしていたのかについては、計画通り中国四川省档案館(成都)と重慶市档案館(重慶)に赴き裁判文書を調査閲覧した。重慶市档案館での閲覧によって、民国時代の訴訟実態についての理解を飛躍的に高めた。また民国時代全般の司法制度についても、研究を進めた。 (3)上海において復旦大学法学院教授王志強氏と会い、民国時代の訴訟裁判について話し合った。また上海図書館に赴き、民国時代の律師、訴訟関連の資料を収集した。 (4)輪読会(研究会)を二ヶ月に一度ほど開き、『順天府档案』(清代)と『龍泉司法档案』 (民国)を読み進め、互いに知見を交換した。 (5)研究成果の一つとして『訟師-中国の訴訟社会』(仮題)の公表を予定しているので、このための関連史料収集を広範に行った。また部分的に執筆に取りかかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文「清末『申報』に見る律師観の進展と訟師観の推移」の執筆は、これまで史料収集を重ねてきたこともあって非常に順調であった。研究代表者にとっては1996年鎌倉会議での報告「訟師から律師へ」以来の懸案を解決したことになり、これで大きな見通しを立てることが出来たと考えている。 民国時代の司法制度についても、これまでの認識より大きく飛躍した。 しかし四川省档案館では、清末および民国期の档案を閲覧できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
四川省档案館で清末および民国期の档案を閲覧できなかったことは、半ば予想していたとはいえ残念であった。できれば最終年度に再チャレンジしたい。 重慶市档案館で民国時代の裁判文書を閲覧したのは、大きな収穫であった。この閲覧によって、制度だけではなく制度を支えた文書形式でも、日本から大きな影響を受けたのではないかと考えるに至った。日本明治から大正時代の裁判文書を閲覧し、中国民国期のそれと比較することも研究課題の一つになった。 研究成果のひとつ『訟師-中国の訴訟社会』(仮題)の公表のためには、なお広範な史料収集と多くの時間を必要とするが、地道に進める方針である。
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