研究課題/領域番号 |
16K03081
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大澤 孝 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 教授 (20263345)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イェニセイ河中・上流域 / 古代クルグズ可汗国 / 古代テュルク・ルーン文字銘文 / 考古学 / タガール時代の立石墓 / テプセイ岩壁碑文 / 共同調査 / 歴史学 |
研究実績の概要 |
本年度は、ロシア連邦ハカス共和国のハカス言語・文学・歴史研究所との学術協定に基づいて、同研究所のYuri Esin主席研究員などとハカス共和国のミヌシンスク市のテプセイ山やアバカン市郊外の古代タガール時代の墓地石に、中世のイエニセイ・クルグズ可汗国時代に再利用されて刻まれた古代ルーン文字碑文やタムガの野外調査を実施した。 まず、テプセイ山の岩壁では2015年春に訪れて、その際に新たに発見した岩壁小銘文を訪れ、計測と写真撮影を実施した。さらにそこから500mほど山の斜面を登って、テプセイ山の頂上付近の岩肌に刻まれたタシュトゥク期時代の大きな動物岩絵についても計測し、写真撮影を行った。 アバカン市から南西にあるアスキス市郊外のウイタグ山の斜面の岩山の岩壁に刻まれた青銅器時代から中世時代にかけての各時代の岩絵を調査し、写真撮影した。またそこに近いカムシュタ地区のタガール時代の墓地の複数の立石についても表面調査を行い、様々な時代のタムガを調査した。その途中では中世のモンゴル系文字でかかれた小銘文を見つけた。 またミヌシンスク市のイェニセイ河沿岸沿いにあるトゥラン岩山からは、かつてロシアの考古学者のI. L. キズラソフが報告したルーン文字を銘文を1点、確認することができた。しかしながらその碑文で使用された文字の中には、モンゴル高原などで使用された古代テュルク・ルーン文字中には確認できない種類のものもあり、難解で、今後の検討課題である。 また10月25日にハカス共和国のアバカンで開催された国際シンポジウムでは、昨年共同調査の結果、ウイタグ山で新たに発見したイェニセイ・クルグズ時代の古代テュルク・ルーン文字銘文の解読と歴史意味について,共同で口頭発表した。またミヌシンスク郷土博物館でも展示されている古代クルグズ可汗時代のの文物に刻まれた文字や記号銘文について、調査を実施した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では,当初企画していた共同調査を実施することができ、新たな成果を得ることができた。その中で、私は現地研究員と共同で、ハカス共和国のアバカン市内,ミヌシンスク市内やアスキス市内の郊外にある古代タガール時代の立石墓を調査し、その中から、古代から中世期にかけて刻まれた銘文やタムガを確認できた。但し、ハカス共和国の研究者側の事情があり、当初の5月よりも遅く、6月中旬となったため、イェニセイ河の上流における融雪のため、対象岩場が水没してしまったために、イェニセイ河沿岸のテプセイ山の麓の沿岸の岩壁銘文を調査できなかった。野外調査は天候の急変や滞在時間が限られるために、日光の加減や風の強弱で撮影できないこともあり、これらは今後の課題となった。また、古代テュルク語の銘文解読にも、それなりの時間がかかる上に、銘文には年代や時代に関わる字句を含まないのが常であるため、銘文の作成年代や主題者を割り出すことについては慎重な調査と研究を要する。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、4月末から5月はじめにハカス共和国のハカス言語文学歴史研究所を訪れ、同研究所の研究員Yuri Esinと共同調査を実施する予定である。 今年はイェニセイ河の上流の雪が溶けて、イェニセイ河の上流からの融雪による増水がはじまる5月中旬時期以前に、イェニイ河中流域の右岸にあるテプセイ岩壁を訪れて、そこに刻まれている古代クルグズ時代に属すると考えられる古代テュルク・ルーン文字銘文や各時代のタムガを調査しようと考えている。またアバカン市から南西にあるアスキス地区のタガール時代の立石墓を調査して、ルーン銘文やタムガの存否を確認する予定である。 また,天候が許すならば、ハカス地方の北部草原のカラ―ユス河とアク―ユス河に挟まれた丘に残るイェニセイ・クルグズ時代の城塞跡についても、表面調査を試みたいと考えている。現在、ハカス国内にはこうした城塞についても、時間を見つつ、表面調査を実施し、建設年代や建設をめぐる歴史背景についても同時代の漢文やイスラーム文献資料の記載とも比較しつつ,歴史学的な考察を行う予定である。これらは現在まであまり情報がないので不明ではあるが、崩壊に直面している場合は、今後修復保全するための手立てについても、現地の研究機関や研究者とも相談しつつ、模索してゆきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は予定通り、ロシア連邦のハカス共和国の現地の言語文学歴史研究所を訪問し、イェニセイ河中流期の遺跡や銘文を訪れた。しかし,テプセイ岩壁については、河への雪解けの水が多く,調査する予定であった岸壁箇所が水没しており、調査を断念しなければならなくなった点は残念であった。 次年度では,今年の結果を受けて、イェニセイ河の増水がはじまる6月前に当地を訪れて、現地の共同研究機関の研究者と共同で、水没して調査できなかった古代の岩絵や古代テュルク・ルーン文字銘文などの歴史文物を可能な限り、調査したいと考える。 また、日程の中で可能ならば、アバカン市の郷土博物館やミヌシンスク博物館を訪れて、クルグズ可汗国時代の文物について、資料蒐集を実施したいと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
今年は4月末から5月はじめのイェニセイ河が増水する前の2週間を調査にあてる予定である。使用計画としては、主にこれら現地調査用の人権費や交通費などに当てたいと考えている。具体的には、その内訳としては、現地で共同して調査するハカス言語文学歴史研究所の研究員、調査の際のジープ運転手への謝礼や現地人の通訳への謝金の他、当地の研究所付属の図書館や博物館に酒造されている関係資料のコピー代などに充当する予定である。
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