研究課題/領域番号 |
16K03084
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
萩原 守 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (20208424)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | モンゴル法制史 / 清朝 / モンゴル人社会 / 蒙古例 / 刑事裁判 |
研究実績の概要 |
平成28年度の研究は大成功となった。移転のため閉鎖されていたモンゴル国立中央古文書館が無事開館されたためである。 まず5月と7月に研究協力者の院生たちと共に国内の学会に出席して、研究情報を広く収集・共有した。次いで8月に私一人でウランバートルに出張し、「第11回国際モンゴル学者会議」に参加・発表した。発表内容は、「オドセルとナワーンの事件」と私が名付けて以前から法的背景を研究して来た19世紀外モンゴルにおける殺人事件である。今回は、逃亡した殺人犯であるオドセルを捕獲する義務を負わされたロプサンドルジという名の官員が犯人を捕獲できなかったために科された刑事罰に関して蒙古例の規定を検討し、この法の起源がモンゴル法や満洲人の法ではなくて明律・清律等の中国法であることを新たに証明した。この研究は29年度中にどこかに投稿する。またこの時、上記文書館開館の情報をモンゴル人研究者がくれ、数名の研究者と共に郊外へ移転した文書館をすぐ訪問した。ただし時間が無くて文書調査はできなかった。 9月に予定通り神戸大学の日本人学生2名をモンゴル国立大学に引率する大学の公務が入り、滞在期間の合間を縫って幸運にも文書館での調査を開始することができた。29年度以降も調査を継続する。さらに幸運なことに、予定通りその滞在期間中に日本の東北大学とモンゴル科学アカデミー等が共催するシンポジウムがウランバートルで開催され、ここでもモンゴル語で研究発表できた。清朝の第二代目皇帝ホンタイジが八旗の兵士に向けて1638年に発布した軍律が蒙古例の中に入ったことを証明した研究である。こちらも29年度中にモンゴル語で書籍に掲載する。以上いずれも大学本部の承認を得た活動である。 11月には人身売買に関する論文を書いた。29年度に出る。研究協力者の院生たちは、夏に内モンゴルや吉林省の古文書館で調査し、大量の情報をもたらしてくれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の科研を申請した直後の平成27年12月頃から、モンゴル国立古文書館が移転のために突然閉館となり、28年度初めの段階では本研究の見通しも、不透明な部分が多かった。古文書館がいつか移転・閉鎖されるかもしれないという危険性は実に数十年も前からいつも指摘されていて、一旦閉鎖となれば数年は閉まったままのはずだとも言われてきた。ただ実際にはそれにもかかわらず何十年もの間、都心から移転しなかったのである。そういう理由で、私は最悪の事態をも想定して内モンゴル各地にある日本人による閲覧が困難な古文書館にゼミの中国国籍の院生たちを研究協力者として派遣して研究対象の地域を広げて考えるという柔軟な計画を立てていた。院生たちの専門分野や彼ら自身による論文発表の機会をも考慮した計画である。ところが、概要の所でも書いたように、27年末に突然閉鎖された同古文書館が予想外に早く開館されることになったため、28年度初めの予想よりも文書調査をずっと大きく進展させることが可能となったわけである。この点、大変幸運であった。 さらに、ウランバートルへ日本人学生を引率して行くという公務の機会を得たことやその期間中に偶然清代モンゴル史のシンポジウムが開かれると言った、私自身の努力や科研の研究と直接には関係のない二重、三重の幸運も重なった。 以上のような幸運をうまく生かしたいと私は考えている。また、研究協力者である私のゼミの院生たちにも決して不利にならないように、彼ら自身による文書調査や研究をも、同時並行の形で進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、28年度と同様に柔軟な方法で研究を進める。まず、清代モンゴルの社会史に関連する既出版史料や研究書を購入収集していく。また、毎年国内の学会に院生たちと共に参加してモンゴル法制史や社会史に関連する最新の研究情報をたえず収集し、私自身はこれも毎年9月に、可能であれば大学の公務を兼ねた形でウランバートルにて文書調査を継続する。公務がなければ科研費で出張する。今の所、ウランバートルで9月に実施する神戸大学のスタディーツアーは予定通りに募集されることになっている。また、院生たちにも日本人による調査が不可能な各地の文書館で調査を実施してもらい、少しでも社会史研究の幅を広げていきたい。 具体的には、29年度には、まずオルドス地方のジュンガル旗に関して写真版で出版されている清代の公文書史料全41巻(38万円の予定)を購入する。研究協力者である院生たちとともにそれを読解していくことによって、研究の幅を広げていく。それらの研究成果は、協力者である院生の名前で発表することを優先し、彼らの研究権の保全を図る。それによって、本研究の幅も広がっていくという手法を採りたい。私自身の研究成果としては、清代モンゴルにおける人身売買の可否を検証した日本語論文(28年11月提出分)が北京で書籍中の一章として出版される。また、日本の東北大学から出版される予定の論文集に、ホンタイジの軍律に関する論文(28年9月発表分)をモンゴル語で掲載する。さらに、犯罪者捕獲の期限を定めた蒙古例条文の起源が中国法であることを確証した論文(28年8月発表分)を日本語で、いずれかのレフェリー付学術雑誌に29年度中に投稿したい。毎年の文書調査の進展に伴って、社会史に関連する著作の執筆も、継続して進めていきたい。
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