研究課題/領域番号 |
16K03084
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
萩原 守 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (20208424)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | モンゴル法制史 / 清朝 / モンゴル人社会 / 蒙古例 / 刑事裁判 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、当初計画していた研究をほぼ予定通りに実施することができた。28年度は想定外の大成功を収めたのであったが、29年度はほぼ計画通りといったレベルである。 まず、昨年度に引き続いて、5月と7月に研究協力者である院生たちとともに国内での学会に参加して、研究情報を広く収集・共有した。また、内モンゴルから写真版で出版されている清代モンゴル・オルドス地方の档案史料集42冊を購入することができた。この史料集は、私自身のみならず、研究協力者である院生たち自身にとっても、大変に役立つ決定的な意味を有する史料集である。特に、内蒙古自治区档案館は我々外国人の閲覧が基本的に認められていないので、既出版のこういう影印版史料集を購入したり、現地からの留学生である研究協力者に閲覧を任せたりする必要がある。もちろん彼らにも、自分自身の論文実績を積み上げていって博士論文につなげるという大きなメリットがある。 9月には、私は神戸大学の日本人学生たちをウランバートルまで引率していく教育上・研究上の公務が入り、私自身はその仕事の合間をぬってモンゴル国立中央文書館を訪問し、29年度も史料調査を実施することができた。引率して行った日本人学生をまじえてモンゴル国立大学の歴史研究者とモンゴル法制史・社会史に関する議論をしたり、10月から神戸大学へ交換留学に来るモンゴル法制史の院生と研究上の打ち合わせをするなど、本科研とも関係する教育上・研究上の公務である。研究協力者の院生2名は、夏期に各々内モンゴルと吉林省の档案館へ出張して、モンゴル社会史関連の史料調査を実施してきてくれた。 29年度の後半期は、清代モンゴルにおける犯罪者捕獲期限の法とその適用事例に関する本格的な論文の作成を進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
史料調査と論文執筆は順調に進んでいるが、ある記念論文集に向けて、平成28年11月に提出していた清代モンゴルの人身売買問題に関する論文が、残念ながらまだ出版されていない。この論文集は、当初平成29年3月に北京で出版される予定であったが、数回延期となった後、諸般の事情で、結局出版中止となってしまった。この問題だけが想定外の事情である。関係者の了解が得られれば、いずれかの学術雑誌に改めて投稿するつもりである。 二点目の論文として、二年ほど準備を重ねてきた清代モンゴルにおける犯罪者捕獲期限の法とその適用事例に関する論文は、この平成30年4月にようやく完成した。既に審査付全国学会誌に投稿中である。順調にいけば、平成31年4月頃に出版される雑誌に掲載される(ただし、日付け上は平成30年)。この論文は、モンゴル国立中央文書館での史料調査や書籍購入等々に基づく本科研の中心的な成果の一つとなる。 また、研究協力者の一人は、清代モンゴル・オルドス地方でのキリスト教宣教師たちと地元モンゴル人たちとの間で起こったトラブルに関する法制史・社会史的な審査付論文が、まもなく学術誌『日本とモンゴル』に掲載される。同じくもう一人は、清末ゴルロス前旗での漢人農民へのモンゴル草原の農地売却問題に関する社会史的な論文が、まもなく審査付全国学会誌『内陸アジア史研究』に掲載される予定である。いずれも本科研に伴う研究協力者としての研究成果であるが、もちろん各々の論文は、彼ら自身の名前で発表される。 また、以前2014年に共著で執筆した「モンゴル法制史研究動向」が、中国語訳されて、中国の学術雑誌に掲載された。ただこれは、本科研とは直接の関係はない。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度も、引き続いて予定通り研究を進めていく。今年度は、書籍購入にはさほど研究費を用いず、主として、出張費に用いる方針である。まず、5月、7月に、研究協力者数名とともに国内での学会に参加し、研究情報を収集する。その内、5月の「満族史研究会」では、私自身が上記の犯罪者捕獲期限の法とその適用事例の論文を、口頭発表する予定である。 9月には、今年度もウランバートルの文書館にて史料調査を実施する。神戸大学の学生を引率する教育上・研究上の公務が入ればそれを利用することとし、入らなければ科研費で出張して調査を行う。いずれの場合でも、10月から神戸大学へ交換留学に来るモンゴル人の新しい学生・院生たちとは、教育上・研究上の打ち合わせを行う。捕獲期限論文が完成したため、今年度の調査の主眼は、殺人逃亡犯オドセルの逃亡・再捕獲の詳細な事情解明となる。また、もしもウランバートルで何らかの学会がうまく開催されておれば、是非ともモンゴル語で研究発表をしておきたい。研究協力者数名にも、内モンゴル方面の档案館に出張してもらい、彼らの名前で社会史関連の論文を執筆してもらう予定である。 さらに、私自身の三点目の研究成果として、清代モンゴルの法制史と社会史との接点をめぐる論文の執筆を考えている。この研究は、今年度中に完成させて、いずれかの雑誌に提出したいと考えている。四点目の研究成果としての書籍の出版は、今年度から来年度にかけての史料調査の進行具合ともかかわるので、史料調査をしっかりと実施していきたい。
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