研究課題
本科研のテーマは伝統中国から中国共産党の支配確立へといたる地域社会の変動をトレースすることにある。前年度までに日中戦争期と国共内戦期の二つの時期に山東省南部の地域社会が経験した動乱と革命、それによる地域社会のリーダーの消滅について検討を加えた。今年度は本科研のまとめとして、これらリーダーを生み出した地域社会の宗族が伝統社会に於いてどのように形成されてきたか、具体的には宗族の来歴、分布、成立の時期並びに彼らがアイデンティティの拠り所とする移住伝説の真偽とそこから読み取れる歴史的事実について考察した。対象地域の宗族の系譜は平均すると大体明代中期まで遡ることができる。この頃が当地域の宗族の萌芽期である。明末から清朝前期にかけては沈滞期を迎え、乾隆年間以降になってから宗族の結集が次第に進行していった。これ以降が華北宗族の発展期である。彼ら宗族の記録である「族譜」によるならば、その祖先の到来を明初に求めるものが多い。しかしこれは伝説の域を出ず、真実とみなすことはできない。その出自もまた“偽りの出身地”というべきものである。おそらくは清朝中期の宗族の発展期にこれらの伝説は純化され、彼らが共有するナラティブとなったと推測される。これらは多くの宗族に共有され、相互を結びつける紐帯となった。この中から華北地域社会の有力宗族が出現した。19世紀後半の社会の動乱、20世紀前半の戦争と革命を経て、彼らの地域社会におけるリーダーシップは拡大・縮小という変遷を経て、最終的に中国共産党の革命の下に組み込まれることになるのである。
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徳島大学総合科学部人間社会文化研究
巻: 27 ページ: 81-116