最終年度である本年度は、これまでの研究の総括として、研究代表者による編著『トルコ共和国 国民の創成とその変容――アタテュルクとエルドアンのはざまで』(九州大学出版会、2019年)を刊行した。本書は、本研究課題である1930年代を中心とした国民形成に焦点を当てた論集であり、全10章(これに序章・終章が加わる)と10名の執筆者からなる。研究代表者が担当したのは、序章および第一章である(なお第一章は、科研費16KK0029との共同の成果でもある)。序章は、トルコ共和国の建国者といわれるムスタファ・ケマル(アタテュルク)の評価の変遷を軸に、現在のトルコの状況をいかに位置づけるべきかを述べ、その延長線上に本書の意義を論じた。第一章は、トルコ共和国の初期に強力に推進された公定歴史学の創成とその変遷について、現代までを視野に入れつつ論じた。以下の各章では、言語(第二章)、音楽(第三章)、ページェント(第四章)、宗教(第五章)、考古学(第六章)、抗議運動(第七章)、国境(第八章)、難民(第九章)、隣国からの評価(第十章)、そして現在のエルドアン政権の展望(終章)が論じられた。本書によって、トルコ共和国における国民形成の様相が、一定程度解明されたと考える。
この編著以外では、研究協力者である坂田舜が、イスラーム若手研究者の会11月例会にて、「ネズィヘ・ムヒッディンの主張―トルコ共和国初期女性知識人による言論の一事例として―」を、本科研の研究成果の一環として報告している。
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