研究課題
平成28年度は、紀元前3千年紀後半に栄えたシュメールの都市国家ラガシュで作成された文書を多角的に研究していくための主な手段として、プロソポグラフィー・データベースの構築に取りかかった。データ抽出を報告者が行い、入力を研究補助員が「ファイルメーカー」ソフトを用いて行った。平成29年4月27日現在で、データ化した名前は549(延べ833)を数える。それらの名前は、誰がどれ位土地を受給したかを記録する土地割当文書、土地を受給しない人々への毎月の大麦配給記録、バウ女神祭儀における食糧配給記録、およびエレシュ・ディンギル女性祭司関係文書などから抽出された。データ抽出・分析と並行して、報告者は、(1)“Royal Nurses and Midwives in Presargonic Lagash Texts” を口頭発表し、(2)“Female Personnel (ar3-du2-munus) in the Presargonic Lagash Texts”、(3)“Women in the Presargonic E2-MI2 Corpus from Lagash: An Overview”、(4)「ギルガメシュの死と死者供養」 を執筆した。(1)~(3)は、いずれも紀元前3千年紀後半のラガシュの女性たちがどのような社会的役割を持ち、どのような経済的地位にあったかを考察したものである。(1)では乳母や助産婦たち、(2)では王家に仕える女性スタッフに焦点をあて、それぞれの仕事や役割、および経済的地位(土地受給の有無や食糧配給量の多少)などを明らかにした。(3)は、大学学部生レベルのハンドブックとして計画された書籍の一章で、紀元前3千年紀後半のラガシュの女性たち(宗教祭儀を主宰する王族女性から社会の底辺に位置する女性まで)を概観した内容である。(4)は、シュメールの宗教儀礼に焦点をあて、ラガシュ文書を含めた日常的な物品支出記録を用いて、ギルガメシュに代表される支配者階級の埋葬・葬儀がどのように行われたのか具体的に理解することを意図した。
3: やや遅れている
申請時には、1名の補助員が1年間600時間の仕事をして、プロソポグラフィー・データベースを粗方作り上げることを計画していた。しかし、1年間で600時間の仕事をすることは様々な点から困難で、また、実際の入力ペースは想定したペースよりも大幅に下回ることが判明した(平成28年度は、3名の補助員が、およそ200時間入力作業を行った)。これが、プロジェクトの進捗状況が「やや遅れている」という結果になった最大の原因である。しかし、年度の途中で、データ入力事項を変更し、一つの名前について書き入れる情報量を削減したので、これからは入力のスピードアップが見込まれる。報告者によるデータ分析と論文執筆は計画通りに進んでいるが、大英博物館とルーヴル美術館における図像資料の収集はまだ行なわれていない。それは、予定外の研究活動(7月のフィラデルフィアで開催された国際アッシリア学会に於ける口頭発表、5月のシカゴ大学および9月のバルセローナ大学に於けるバルセローナ大学研究者との打ち合わせ)の時間的・予算的影響が一因となっている。
平成29年度も引き続き研究補助員を雇って、スピードアップを図りながらデータの入力を行う。報告者は、データの抽出、およびそれと同時にデータの分析を行う。また、女性が多数登場する「王子・王女たちの友人たち(?)」と称される文書群とエレシュ・ディンギル女性祭司関係文書群の比較検討を試みる。すなわち、両者の文書群に言及される人たちの間に関係がありそうなことは、それらを眺めただけでも感じられるのだが、より詳細にそれがどのような関係にあるのか分析・検討する。11月10~11日(土・日)に “Women’s Religious and Economic Roles in Antiquity”「古代世界における女性の宗教的・経済的役割」と題する研究会を中央大学多摩キャンパスで開催する。参加者は、国内外の研究者12名(国内の若手研究者6名を含む)を予定している。この研究会の中心は、紀元前3千年紀後半から前1千年紀前半のシュメールおよびアッシリア・バビロニアの女性と宗教・経済の関係を議論することであるが、ヒッタイト、エジプト、および古代中国の研究をその比較材料としたい。なお、海外の博物館訪問は11月の研究会後に行う予定である。
研究補助員の労働時間数が計画よりも少なかったことが理由にあげられる。
研究補助員の人件費に当てる予定である。
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Orient
巻: 51 ページ: 47-62