本研究においては、敦煌文献がもつ学術研究上の潜在力に対して大きな制約を加えている「贋作」の問題に対して、その真贋を見極める一つの方法として、初期流出品が市場に流通した経緯・事情に焦点を当てて、具体的な事例を蓄積するための作業を行った。当初予定していた、羅振玉の旧蔵書に関してはほとんど新たな知見は得られなかった。しかし、初期流出品としては羅氏旧蔵書より一般的に知名度が高いと言ってよいであろう、李盛鐸の旧蔵コレクションについて、幾ばくかの成果を得た。李盛鐸の収蔵印には偽印があるが、この偽印を使用していた人物(集団?)は、贋作・真作ともにこの偽印を捺して市場に流通させていたらしい、ということである。
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