研究課題/領域番号 |
16K03102
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研究機関 | 公益財団法人東洋文庫 |
研究代表者 |
原山 隆広 公益財団法人東洋文庫, 研究部, 研究員 (40513544)
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研究分担者 |
三浦 徹 公益財団法人東洋文庫, 研究部, 研究員 (00199952)
佐藤 健太郎 公益財団法人東洋文庫, 研究部, 研究員 (80434372)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヴェラム(皮紙)文書 / 契約文書 / 都市環境 / イスラーム法廷 / 家産管理 |
研究実績の概要 |
初年度にあたる平成28年度には、モロッコおよび周辺諸国(チュニジア)の図書館や文書館等において、皮紙契約文書の所蔵状況調査を開始した。 モロッコでは、連携研究者の亀谷学氏が2016年12月19日~12月29日に海外出張へ赴き、ラバトの国立図書館にてベンスーダ家旧蔵コレクション(フェスの名家旧蔵の寄贈写本・文書資料)の調査を行なった。同館写本部門長のN. Bensaadoon氏の協力を得てその全体像を把握し、同コレクション収載文書について、サンプル調査をもとに来歴・内容等の特徴を明らかにすることができた。 また、海外共同研究者のL. Bouchentouf氏(ムハンマド5世大学教授)とこの調査結果について検討を重ね、平成29年度に同地で予定している研究セミナーを含めて今後の研究実施計画について打合せを行なったほか、フェス・メクネス実地調査に向けた予備作業を進めた。 周辺諸国については、連携研究者の吉村武典氏が2017年3月1日~3月13日にかけてチュニジアを訪れ、海外共同研究者のS. Bargaoui氏(マヌーバ大学教授)およびM. Chapoutot-Remadi氏(チュニジア科学・文学・芸術アカデミー人文社会学部門長/チュニス大学名誉教授)と共同でチュニスの国立図書館および文書館にて調査を実施した。とくに同文書館所蔵のワクフ(寄進)文書コレクション内に、東洋文庫所蔵文書と共通する形態的特徴を持った皮紙文書群を発見できたのは大きな成果である。 チュニジアではこの他、カイラワーンとスースの両都市も訪問調査した。カイラワーンのラッカーダ博物館に同種文書が所蔵されているとの有益な情報を得たことに加え、スースでは私家文書の存在を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に沿って、現地(モロッコ・チュニジア)での文書所蔵状況調査を行うことができ、研究計画は概ね順調に進展しているといえる。 モロッコ調査では、ベンスーダ家旧蔵コレクションの閲覧・利用が実現した点が大きな意味を持つ。東洋文庫に複数の同家関連文書が所蔵される点から、類似文書発見の優先対象とした同コレクションであったが、今回の調査により同家がフェスに所有した家産関連文書を含む可能性が低いことが判明した。当初予測には反するが、この結果を踏まえて今後の調査対象機関・資料の再設定をしえた点で、研究計画全体に活かすことが出来たと考える。 次にチュニジア調査では、東洋文庫所蔵文書と類似した皮紙文書の存在を実際に確認できた点が非常に重要である。同地での調査結果は、不動産等の所有権移転にさいし関連証書を一枚にまとめ、かつ皮紙に記すという行為が広範に行われていたことを示唆している。私家文書に比べ管理状況が良好なワクフ文書という資料群にそれらが含まれる点は、調査対象の選定において重要である。モロッコ等でもワクフ文書を対象とした調査を進めることで、新たな文書発見が期待できる。 また、S. Bargaoui氏との検討を通じて、この様な特徴をもつ文書の作成が北アフリカのマーリク派法学における法行政慣習に起因する可能性が示されたことは、本研究を進めるうえで有意義である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度における進捗状況を踏まえ、今後の研究計画は次のように進める。 文書所蔵調査:モロッコについては、国立図書館所蔵のベンスーダ家旧蔵コレクションを主要対象としていた従来の計画を変更し、ラバトの国立文書館等でのワクフ文書を対象とした調査に取り掛かる。チュニジア調査での経験をもとに、複数名による集中的な作業を実施する。また周辺諸国については、マグリブ諸国との比較対象として、可能であればエジプトでの状況調査を試みる。 実地調査:現地機関の状況を考慮して延期していた、フェス・メクネスでの本格的な実地調査を行なう。現地研究者とともに、文書中に登場する対象物件等の比定を試み、それらを訪問調査することに加え、フェスのカラウィーイーン図書館等において関連資料調査も併せて実施する。 研究セミナー開催:「モロッコにおける皮紙契約文書」をテーマとした研究セミナーをモロッコで開催する。研究代表者・分担者らが進めてきた調査結果について報告し現地研究者と討論を行なうことで、それらを本研究計画に反映させることを目指す。 以上の結果をもとに、計画最終年度にあたる平成30年度に国際研究セミナーを(公財)東洋文庫で開催し、また本研究計画の最終的な成果を同年度末刊行予定の英文論叢(TBRL: The Vellum Contract Documents in Morocco in the Sixteenth to Nineteenth Centuries, Part II)の一部として発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定しいた海外調査出張のうち1件につき、現地における研究状況(主要な調査対象機関の一時閉鎖)を考慮して、より効果的な調査が見込める平成29年度に延期して行なうことにした。このため同出張旅費相当分について、次年度使用額が生じることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の海外調査出張を、平成29年度に予定している調査計画に組み入れて実施する。派遣人員の追加または調査期間の延長をもって、当該出張で行なうはずであった調査活動分の充足に当てる。
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