研究課題/領域番号 |
16K03107
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
橋川 健竜 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (30361405)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2020-03-31
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キーワード | 1812年戦争 / カナダ / アメリカ合衆国 / 北米大陸 / 先住民 / 記憶 / 観光 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、1812年戦争を題材としてアメリカ史とカナダ史双方の研究のあり方を学び、それらを接合した北米大陸史の構想を考えるものである。平成29年度は主に、研究代表者にとっては新しい領域である19世紀カナダ史について、近年の研究書と『カナダ史評論』の学術論文を収集し、研究動向を学習した。その過程で、1812年戦争についてだけではなく、カナダ史全体の研究の流れ、特にグローバル化とカナダ史研究の対応関係についても文献の収集と読解を行った。また国内のカナダ学会年次大会に参加して、日本のカナダ史研究者から研究動向について教示を受けた。 加えて、1812年戦争前後のアメリカで刊行された、カナダに関係する同時代文献の書誌情報を収集し、一部は電子版の原典を入手して読み進めた。 これらの作業から得た知見を総合するに、1812年戦争についてはカナダ側、アメリカ側それぞれの歴史研究が別個の語りをもって別々の内容を論じている。また終戦後のカナダでは、保守派・改革派のいずれも反アメリカ的な言論が一般的になった(特に英語圏)。他方アメリカでは自国の西部への人口移動や領土拡張が進められ、北の国境やその向こうに注目が集まったとはいえない。現在のところ、①1812年戦争とその後に着目しながら米加双方に目配りする場合、並列的な叙述になる可能性は避けえない、②架橋する場合は政治思想史、歴史社会学などに学んで何らかの概念を導入するべきである、③米加の相互認識の食い違いを明確に示すために同時代イギリス政治史の知識を用いるべきである、と判断している。なお、1830年代にはカナダを扱う文献がアメリカでより多く刊行されるので、それらの文献に見られるカナダ理解、1812年戦争の理解も検討対象にしたい(1830年代後半に両カナダでおきた反乱の扱いは慎重に行いたい)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は主に、研究代表者にとっては新しい領域である19世紀カナダ史について、近年の研究書と学術論文を収集して、研究動向とその傾向を学習した。その過程で、1812年戦争そのものだけでなく、カナダ史全体の研究の流れ、特にグローバル化とカナダ史研究の対応関係についても文献の収集と読解を行った。また国内のカナダ学会年次大会(2017年9月9日~10日、於:国立民族学博物館)に出席して、日本における研究動向を確認し、日本のカナダ史研究者から研究状況について教示を受けた。 これらを踏まえてみると、1812年戦争は米加を統合するよりは強く分断する契機になったこと、カナダ史、アメリカ史双方の研究動向がその分断に沿った研究を行ってきたこと、という史実上・研究史上の現実があることが確認できた。また、アメリカの主戦論者たちを席巻していた反英主義とも言うべき思潮の輪郭は、アメリカ史の枠を越えて同時代のイギリス政治と照らして理解するべきであることも明らかになった。これらの点を受けて独自の切り口を作るところまで至っていないため、本研究は現在やや遅れていると判断する。ただ、これらの予備作業なしに現地調査を行っても成果が期待できないことにかんがみて、適切な時間の使い方であったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
米加の歴史研究はそれぞれ別個の語りを展開してきており、それと異なる傾向を示す資料は、1812年戦争については多いとはいえない。この基調は認めたうえで、数が少ないながらカナダに目を向けたアメリカ人の言説を追うことが一つの実証的な研究の方法である。そのため、目録American Imprintsを用いて19世紀前半のカナダを扱う文献を同定・収集する作業を継続し、平成30年度初めの数ヶ月で1840年分まで行う。当面はセオドア・ドワイトなどニューヨークに拠点を置いた文人たちが19世紀第二・四半期に発表した北アメリカ旅行記・ガイドブックなどの分析を行い、ケベックに比較的大きな紙幅を割く彼らの記述は戦争中に戦争への非協力を貫いたニューイングランドのフェデラリスト派から何を引き継いでいて、また次の時代の先がけとなる部分はどこに見出されるか、を検討したい。また1830年代に入ると、ヨーロッパからの移住者を意識したと思われる、別種のカナダ紹介本もアメリカで複数刊行されている。一部はアメリカとカナダを両方紹介していて、比較的な検討が可能である。これらにも注目する予定である。 こうした19世紀中ごろにかけてを扱う調査に加えて、戦争期の言説や体験記を継続して収集する(カナダ史ではマイケル・スミスの戦争体験記が有名だが、これをアメリカ史の枠でも利用できないか検討したい)。またアメリカ側の一次資料には先住民に対する敵意が強く表明されていて、それが反英主義を強化し、ひいてはカナダへの否定的な見方につながるので、先住民史についても資料調査を行う。 カナダ史側に関しては、目録や同時代資料の復刻、あるいは看過できない主要な学術雑誌などが国内の研究図書館にも所蔵されていないことが多い。そのため、論文の注記などから書誌情報を出来る限り集めた上で、カナダに出張してこれら資料や論文の入手を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者は、平成30年度に所属大学から研究専念期間を取得することが認められた。そのため、30年度に資料収集と分析に時間をかけるとともに、日本カナダ学会他への国内出張のほか、集中的に複数回の海外出張を行うことを計画している。アメリカおよびカナダへの出張はどうしても高額になるため、平成30年度分の予定交付額だけでは、十分な期間を取って資料調査を行うには足りない。それゆえ、平成29年度分の交付金の一部を意図的に執行せず、次年度に残すこととした。平成28年度分の残額ともあわせて、平成30年度に入ってから、同年度分の交付金とあわせて執行することとしたい。
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備考 |
所属するアメリカ太平洋地域研究センターのホームページ上から、研究プロジェクトの状況報告を記した『CPAS Newsletter』のPDF版にアクセスすることができる。
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