研究課題/領域番号 |
16K03108
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
伊東 剛史 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (10611080)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 国際情報交換 / イギリス史 / 文化史 / 社会史 / 動物福祉 / 動物倫理 / 動物観 / 国際研究者交流 |
研究実績の概要 |
本研究は、近代イギリスの動物福祉に関する報告者のこれまでの研究成果を基盤とし、その歴史的変容を総合的に捉える視座を構築することを目的とする。新たな史料群の発見・分析を通じて、動物福祉の実践、理念、制度という3つの視角からこの研究課題にアプローチする。初年度にあたる2016年度は、19世紀イギリスの動物福祉に関する構造的変化を、歴史的アクターの視点から捉え直すという試みを中心に、研究を進めた。具体的には、進化論者チャールズ・ダーウィンによる『人間と動物の感情表現』(1872年)に着目し、感情を科学的に解明するにあたり、それが当時の人々の動物観にあたえた影響と、とりわけ動物実験の是非をめぐる動物生体解剖論争との関係において、明らかにしようと試みた。その成果の一部を、「観察ーダーウィンとゾウの涙」(伊東剛史、後藤はる美編『痛みと感情のイギリス史』所収)として発表した。また、派生的な研究成果として次の2点がもたらされた。ひとつは、動物学の制度化と専門分科に関するものである。これは自然、動物、生命を理解するにあたり科学の影響力が増大したヴィクトリア期イギリス社会を総体的に考察するうえで、重要となる研究テーマである。これに関して、化学史学会において研究報告を行った。ふたつめの派生的な成果は、イギリスとの比較の観点から日本における動物観の歴史的変容を考えるものである。これに関しては、カナダで開催された国際ワークショップ、およびアメリカで開催されたアメリカ歴史学協会年次大会において、旭山動物園を題材とし英語圏の動物園史との比較の観点から研究報告を行った。今後、その成果をまとめ、国際共著論集に寄稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目的は、科学者チャールズ・ダーウィンの視点から、19世紀イギリスにおける動物福祉の構造的変化を捉えるというものだったが、それがひとつの研究成果としてかたちになり、充実した初年度になったと考えている。本研究計画は、初年度にフォーカスした19世紀後半から世紀末までを中心とし、その前後を含めて1世紀余を対象としている。そのなかでの動物をめぐる制度と理念、あるいは動物福祉の実態の長期的変容を考察するうえで、ひとつの観測点を築くことができた。2年度以降の研究を展開させるうえで一助となるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
2年度目は、19世紀末から20世紀初頭の動物福祉に関する制度的変化と、その背景にある政治的、経済的要因、あるいはより広範な一般の人々の動物に対する理解や態度の変容を考察する。この時期は、初年度が対象とした19世紀後半から世紀末と比較して、研究が手薄い領域であり、史料上の新たな発見を目指すとともに、本研究課題が目的とする長期的変容を見据える総合的な視座の構築に寄与する、この時期の特徴を見極め、人と動物の関係史におけるその意義づけを行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予測より消耗品(トナーなど)使用が少なかったため、11728円が次年度使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度の消耗品の購入が当初予定より少なくすんだが、今年度には必要になると考えられるので、それに充当される。
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備考 |
ハミルトン(カナダ)で開催された国際ワークショップ(主催:McMaster University)において、研究報告を行うとともに、学際的な動物園研究の可能性についての議論に参加した。この研究集会の成果は、国際共著論集(Zoo Studies and a New Humanities)として、トロント大学出版会より刊行予定。
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