動物福祉の歴史に関する従来の研究は、個別事例の分析に終始するものが多く、個々の発見を統合するための視座を欠いていた。これに対して本研究は、動物福祉の中長期的な展開を理解するための、総合的な歴史像を描くことができたと考える。動物倫理に関する諸問題が社会の広範囲に影響を及ぼすには、動物の救済を目的とする様々な社会的実践だけでなく、それらの実践を動物福祉として規範化する制度を必要とした。さらに、そうした制度の構築は、「動物の権利」という普遍性を纏った理念の創出をともなう。この一連の歴史的ダイナミズムを解明することで、今日の動物福祉問題を考察するための、学術的検証に耐えうる視座を提供することができた。
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