研究課題/領域番号 |
16K03113
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中野 耕太郎 大阪大学, 文学研究科, 教授 (00264789)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アメリカ史 |
研究実績の概要 |
本研究は1970年代を中心に、現代アメリカの市民ナショナリズムが再編成されていくプロセスを検証するものである。研究3年目の本年度は、60年代末から70年代初頭の福祉国家の衰退過程にあらわれるリベラル・デモクラシーの退潮と人種マイノリティの貧困問題、そして軍事的市民権の変容に焦点を合わせて研究を進めた。またその際、これらの問題に関わる国際的な視点を維持するために、冷戦期から引き継がれてくるアメリカの対アジア・アフリカ諸国への海外援助政策との関係性についても検討を加えた。さらに、最新のアメリカでの研究を収集分析するなかで、これらの問題がこの時期に本格的に生成する監獄国家(carceral state)問題と密接に関連するという知見を得、この点についても今後の議論に組み入れるべく努力した。 具体的には、これまでの研究成果の一部を2冊の共著、『人文学宣言』(山室信一編、2019年)、『われわれはどんな「世界」を生きているのか―来るべき人文学のために』(山室信一他編、2019年)において公刊した。特に後者の論文集では、「『偉大な社会』から破砕の時代へ―1960年代アメリカ史試論」と題する論文を寄稿し、冷戦期の海外援助政策から60年代の貧困再発見、そして70年代のアメリカ社会の監獄国家化へと向かう流れを、国民統合とシティズンシップの問題に引き付けて論じることができた。特に注目したのは、M.ハリントンの『もうひとつのアメリカ』(1962年)に現れた新しい貧困観、人種観とケネディ政権の平和部隊事業、そしてジョンソン政権の「対貧困戦争」からニクソン政権の「対犯罪戦争」へと向かう治安政策との相互関係だった。60年代から70年代を架橋する時期を対象とした同論文は、これまでの本研究の中間報告的な性格を持つとともに、次年度、本格的に作成する予定の70年代研究の基礎となるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、本年度は研究最終年度であったが、種々の理由から、予定していたアメリカでの現地調査を実施することができず、1年間の期間延長を行った。その意味での遅延は否定しがたいが、他方、本年度はすでに収集した文献史料の分析作業に集中することができ、研究の全体計画からすると十分な進捗が認められた。次年度に、延期された現地調査を実施し、研究の最終的な取りまとめを行うことで、計画を完遂できるものと見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2019年度は、当初計画の中でまだ十分に行えていない在米研究を実施するとともに、4年間にわたる本研究課題の分析を総括し最終的な論考にまとめる作業を行う。在米研究については、夏季におよそ2週間の予定で実施する予定である。具体的には、ワシントンDCの米国議会図書館等で全米黒人地位向上協会(NAACP)や全米女性機構(NOW)の反植民地主義、国際人権運動との関連を示す史料を調査し、また、ノースウェスタン大学、シカゴ公立図書館等で1970-80年代の女性市長、黒人市長に関する記録をさらに分析したい。年度後半には、こうした調査・研究にもとづき、4カ年にわたる70年代の市民ナショナリズム研究を総合し、より大きなアメリカ史の文脈に位置づける作業を行う計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究において、当初計画にあったアメリカでの現地調査が、校務多忙および論文執筆の事由から実施することができず、研究期間を1年延長せざるをえなかった。当該助成金が生じたのはそのような理由によるものであり、次年度にはこの資金を主に延期された在米研究に充当し、研究計画を完遂する計画である。
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