本研究は、現代アメリカの市民ナショナリズムの再編過程を、四領域の市民権、すなわち、自由主義的、社会的、軍事的そして国際的なシティズンシップの史的変容とせめぎ合いのうちに考察するものである。研究最終年の本年度は、昨年から引き続き1970年代における歴史的な福祉国家の衰退と社会的なシティズンシップやリベラル・デモクラシーの盛衰に関する検討を進めた。その成果の一部は、10月に単著『20世紀アメリカの夢―世紀転換期から1970年代』(岩波書店、2019年)として刊行した。また本年度は、20世紀後半に顕著となる人種マイノリティの地位改善とその国際的な含意についてさらなる研究の進展があった。当初、予定していたアメリカでの史料調査は、新型コロナ・ウィルスの流行のため取りやめざるを得なかったが、早稲田大学図書館でマイクロ資料、全米有色人地位向上協会文書(Papers of the NAACP)を閲覧することができ、ある程度補うことができた。特にこの史料群からは、1960年代半ばを中心に、アメリカ黒人の運動がいかに深くアフリカの旧植民地諸国の独立と人種差別の問題にコミットしたかが明らかになった。例えば、1964年~65年の記録には、南アフリカやローデシアのアパルトヘイトやコンゴ動乱に関する記述が多く現れ、また同時期にアメリカ黒人とアフリカとの関係を論じたGeorge M. HouserやAdelaide Cromwell Hillら黒人知識人の主張にも強い関心が示されていた。同文書は必ずしも1970年代以降の記録を網羅せず、不十分な面もあったが、米国内の市民権運動とアフリカの解放、民主化という国際的な展開が密接に結びついていたことを確認できた。こうした成果をこれまで蓄積してきた冷戦や福祉国家のシティズンシップ論と総合し、20世紀後半の市民ナショナリズム像を再構成することが今後の課題となる。
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