本研究は現代アメリカの市民ナショナリズムの変成過程を、ポスト福祉国家時代の始まりともいえる1970年代を中心に分析した。その際、黒人市民権運動の影響やベトナム戦争末期の徴兵制停止といった新たな政治・社会変動をより幅広い米国シティズンシップの展開との関連から歴史的にとらえ直した。この作業をとおして、格差社会化にともなう社会的な市民権の衰退や市民による軍事奉仕のあり方の変化が、にわかに台頭した小さな政府論や厳格な個人主義と密接に結びついていたことが明らかになった。1970年代以降の市民ナショナリズムは、統合主体としての福祉国家が後退する中で、新たな社会分断との相克を抱えるものとなった。
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