研究課題/領域番号 |
16K03114
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
山辺 規子 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (00174772)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中世イタリア / 都市文化 / ボローニャ / Tacuinum Sanitatis / 支配者層 / 中世健康論 / 中世大学 |
研究実績の概要 |
本研究は これまでの科研研究を踏まえて、以下の3つの研究の柱を考えてきた。1,2はボローニャを中心とするが、3はイタリアの食文化とも結びつき、日本も含めて世界を視野に入れる。 1. イタリアにおける大学と都市との関係の考察 中世後期のイタリア都市にあって、世俗的な性格をもつイタリア型大学が都市文化に対して持つ意味を考える。これまでボローニャ大学の創立、法学者の活動、カリキュラムと給与について集めたデータと他の大学の事例とあわせて研究する予定であったが、これまでの研究のまとめにとどまっている。 2. イタリアの都市景観の研究 ボローニャの都市景観の変化をまとめるために、他のイタリア諸都市にも視野を広げて都市景観を総括するべく、中世イタリア都市論の研究者たちと数回にわたって意見交換をした。 3. 『健康全書』に関する研究 2018年度は、ボローニャにおいて活躍した中世ヨーロッパにおける最初の農学者とされるピエトロ・デ・クレシェンティ(c.1233-1320)に注目した。彼はボローニャ出身で、大学で法学を学んだあと、各地を回るポデスタ付きの裁判官となり、イタリア各地の状況を知る機会を得た。引退後ボローニャ郊外で農園をもち、『農事論』を執筆した。この『農事論』はすぐに各国語に翻訳されたが、その内容は図版付きで作成された『健康全書』に通じる。また都市社会における法学関係者の社会的役割を果たしている事例といえる。本年度は、クレシェンティの経歴についてイタリア中近世史研究会でまとめ、鶴岡致道大学での講座で、その活動と『健康全書』を結びつける見解を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2016-2017年度は、食の文化フォーラムのコーディネータとして編著『甘みの文化』(ドメス出版、2017年10月刊)の刊行に携わることになり、当初想定した以上に時間をとることになった。同書では『健康全書』の砂糖、ハチミツなどについて紹介をした。2016年度にイタリアのボローニャと日本の食文化研究部会大会で講演した内容を刊行した。また、奈良女子大学文学部まほろば叢書として『甘葛煎再現プロジェクト―よみがえる古代の甘味料』(かもがわ出版、2018年3月刊)を編者として刊行することで、かなりの時間をとられた。 一方、九州史学会大会シンポジウムや『イタリア史を知るための50章』で北・中部イタリアと対照するかたちで南イタリアの転換点の考察をできたことは、都市文化を考える際にもプラスであった。、このほか、まだ刊行にいたっていないが『イタリア史体系』の教皇領の担当部分も中世イタリアの都市文化の記述につながるものであり、2019年度中の刊行をめざす。 2018年度は、勤務大学の人文社会学科長として進行しつつあった大学院改組、新入試計画策定、自己点検報告書作成に対応するため、かなりの時間がとられた。また、6月に自宅がある高槻で大阪北部地震が発生し、自宅の資料、参考文献などの整理をおこなう必要が生じた。この結果として、当初の計画にあった海外における研究調査、研究上の意見交換ができず、研究が遅延した。そのなかで、大学で法学を学び裁判官として活動していた人物が各地の状況を観察し農学者としてきわめて高い評価を得たピエトロ・デ・クレシェンティのキャリアと執筆された『農学論』の作成経緯、構成、受容のありかたについて確認し、鶴岡致道大学での講座でも取り上げた。また、教皇支配のイタリアで大きな意味を持つ教会と食文化との関わりに関する本の執筆準備をした。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、これまでの遅れを取り戻すべく努力するが、国際会議で研究成果を報告するため、その結果しだいで、研究成果のまとめをするべく、研究期間の延長を希望することも考慮したい。 1. イタリアにおける大学と都市との関係の考察 中世後期のイタリア都市にあって、世俗的な性格をもつイタリア型大学が都市文化に対して持つ意味を考える。とりわけ、これまでボローニャ大学の創立、法学者の活動、法カリキュラムと給与について集めたデータと、他の大学のデータと比較対照する。他大学のデータとの比較についてはまだ十分にできておらず、これからの課題だが、ボローニャ大学の成果はまとめて2019年11月に関西学院大学西洋史研究会大会で示す予定である。 2. イタリアの都市景観の研究 イタリア都市の例として取り上げられるフィレンツェ、ヴェネツィアも考慮に入れつつ、まずボローニャの都市景観の変化をまとめたうえで、前回の科研研究で現地調査をおこないながら十分考察できなかった諸都市(南イタリア)にも視野を広げて都市景観を総括する。その際には、地中海学会やイタリア史研究会、中近世イタリア史研究会などで関連するイタリア都市景観を研究対象としている若手研究者との交流を通じて、新しい研究の流れも取り入れる。 3. 『健康全書』に関する研究 『健康全書』シンポジウムの報告者が別の科研研究で国際研究集会を開催するために2019年度に研究成果をまとめることが難しい。そのため、まず、2019年7月にイギリスのリーズで開催予定の国際中世学界で『健康全書』に関わる報告をおこなう。(言語は英語)また、現在執筆中である中世ヨーロッパの食文化、とりわけ地中海式食事法と呼ばれるものをキリスト教文化とつなげて考える本の完成を優先する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は、6月に自宅がある高槻で大阪北部地震が発生し、自宅においてあった資料、参考文献などが散乱し、その整理に時間がかかった。また勤務する大学の文学部人文社会学科長として進行しつつあった大学院改組、新入試計画策定、大学認証評価につながる自己点検報告書作成に対応するため、かなりの時間がとられた。この結果として、当初の計画で予定していた海外調査ができなかった。そのため、史料収集、研究の打ち合わせが十分にできず、また、これまでの研究のまとめにも支障をきたし、研究計画を予定どおり実施することができなかった。 本年度は、7月に国際中世史学会(イギリス:リーズ)でこれまでの研究の進捗の結果として『健康全書』に関する発表をおこない、イギリスにおける研究上の打ち合わせ、史料調査を実施する。また、8月にはイタリア中世史研究会で中世大学の比較について発表し、論点を明らかにしたうえで、9月にイタリアなどでの史料調査、研究の打ち合わせをおこなう。その成果をについて、11月の関西学院大学で講演をおこない、あわせて論文としてまとめる予定である。この間に、2018年度までにおこなう予定であった研究のまとめの作業をできるかぎり進め、教皇支配のイタリアで大きな意味を持つ教会と食文化との関わりに関する本を執筆する。
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