研究課題/領域番号 |
16K03116
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
正本 忍 長崎大学, 多文化社会学部, 教授 (60238897)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 絶対王政 / 官僚制 / 売官制 / マレショーセ / フランス / 治安 / アンシアン・レジーム |
研究実績の概要 |
平成29年度は、第1課題「1720年と1778年にマレショーセで売官制廃止が実施された理由を解明し、その政策を王権が16~18世紀に採った売官制に対する政策全体の中に位置付ける」を、交付申請書に記載した計画のうち④16・17世紀のマレショーセ関連の王令を分析し、旧マレショーセにおける売官制の変遷を把握する、⑤1720年のマレショーセ改革による売官制の部分的廃止の意義を、1661~1720年の売官制政策の中で評価する、⑥マレショーセにおいて売官制を全面的に廃止した1778年の王令を分析し、当該王令と18世紀後半における売官制廃止の2つの試み(モプーの改革、軍における売官制の廃止)との関連を検討する、⑦1778年の王令公布後のマレショーセ将校の採用実態を調査・分析する計画であった。 まず、④、⑤については、マレショーセにおける官職売買のあり方を王令集および先行研究によって確認し、ルイ14世親政期以降の売官制に関連する政策に注目しつつ、1720年にマレショーセで売官制が部分的に廃止された意義を検討した。その成果は、平成30年12月刊行予定の拙著『フランス絶対王政の統治構造再考』の中で示されることになる。また、⑤の研究の一環として、売官制に関する概説書W. Doyle, La venalite (Paris, 2000)を全訳した。今後、細部を見直し、31年度での出版を考えている。 次に、⑥については、マレショーセにおいて売官制を廃止する王権の政策を、1760年、1768年、1769年、1778年の4王令の分析によって跡付け、これらの政策とアンシアン・レジーム末期20年間の王政改革との関連性について検討した。さらに、⑦については、1778年王令の実施の実態を検証するために28年度および29年度に現地の古文書館で収集した1778年の前後の史料をほぼ読み終え、分析を開始する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度には上述の④~⑦の計画を立て、④、⑤に関してはその分析内容を出版予定の著書に中に盛り込むことができたし、また、小著ながら売官制に関する概説書を全訳する作業を終えられた。しかし、⑥についてはその成果の一部を史料紹介(1760年の王令の全訳・解説)という形で『九州区国立大学教育系・文系研究論文集』に投稿する予定であったが、「対訳翻訳の論文はこの論文集にはなじまない」として勤務大学から推薦をしてもらえず投稿できなかったのが想定外であった。1760年、1769年、1778年の王令はその重要性を考慮すれば、史料紹介の形で全訳を公表するのが望ましいが(実際にこれまで同様の史料紹介を4つ公表している)、それぞれの分量がかなり多いため、公表する場がなかなか見つからないという問題点がある。今後、発表の場を捜す必要がある。⑦については史料の読解はほぼ終えているが、まだ分析に至っていない。 また、29年度は、第2課題「他の組織、特に裁判管轄・成員の面でマレショーセと関係の深かった国王中級裁判所との比較によって、マレショーセで売官制が廃止された理由を解明する」に関する予備調査(主として史料収集)を行う予定であった(⑧)。具体的には その中心的な分析視角(裁判役人の兼職)に関する史料をフランスの4古文書館で収集する予定だったが、28年度の史料収集作業で漏れた史料を補充することを優先させたため、2古文書館にしか行けず、史料の収集が不十分になってしまった。 以上を考慮して、「やや遅れている」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度(最終年度)には課題2の検討、全体の総括を行う。また、本研究の成果の応用を検討する。具体的には、⑨マレショーセの成員名簿の分析によって、マレショーセの裁判役人とバイイ・上座裁判所の裁判役人との兼任の実態について検証する、⑩現地の4古文書館で課題1、2に関する史料を補充する、⑪マレショーセにおいて売官制の廃止(親任官制の導入)が実施された理由を再検討する。 マレショーセで売官制が廃止された理由を、王権がマレショーセを独立して存続させた理由と絡めながら検討し、国王裁判所機構におけるマレショーセの存在意義を明らかにする。また、絶対王政期の売官制・官僚制、国王裁判機構、統治システムに関して新たな知見を提示する。得られた研究成果を平成30年度12月出版の拙著にできるだけ活かしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、年度末の出張(学会および研究会への参加のために平成29年3月26~29日に予定)の日程や費用がなかなか確定しなかったことによる。結局、その出張に行くことが不可能になり、次年度使用が生じることになった。次年度に使用する金額は、フランス絶対王政期の売官制に関して議論する研究会(7月27・28日、於国際基督教大学)の旅費に加える予定である。
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