研究課題/領域番号 |
16K03118
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
草生 久嗣 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 准教授 (10614472)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 西洋史 / 西洋中世史 / 地中海 / ビザンツ学 / 異端 / 写本 / 編集 / テキスト分析 |
研究実績の概要 |
初年度は、原史料解析と並行し学会動向の精査を行った。近年再び勢いを増している中世東欧異端論出版にまつわる研究動向に、批判的論点を提示し得た。それを踏まえ、年来継続中のテキスト分析の成果を、次年度以降に示しうる議論のプラットフォームづくりが進められている。この中世異端論出版の隆盛は2010年代になって、これまで研究者の手薄であった東欧圏においてみられ、東欧諸地域における民衆信仰研究の一相としての地位を与えられて人気を博している。しかしそこでは本研究がその中世的編集において特徴を指摘しようとしている「異端論駁書」および「異端学書」に対する洞察が乏しいままであるといえる、この立場からの学会動向への異論表明が求められていた。 異端学書の資料的意義について、国際査読誌(Asian Review of World Histories)への掲載を果たしたのち、7月に国際シンポジウム(立教大学会場)での英語報告、8月にセルビア共和国ベオグラードにて開催された第23回国際ビザンツ学会において専門報告を果たし、国際学界のネットワーク上に本研究の存在と意義を訴えた。このベオグラード学会への参加に際し、日本ビザンツ学会代表より、日本代表代行としての国際委員会における参加を委嘱され、その際にビザンツ帝国史歴史地理学派の指導的研究者との交流の機会を得ている。このセルビア行きに付帯して、東欧圏における異端学研究の調査も行われる予定であったが延期された。本年度の活動成果の総括にあたるものは、2017年2月に行った国際シンポジウム(立教大学会場)での英語口頭報告においてなされており、叢書内論考として出版を期した準備が進められている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多言語、多くの国からの先行研究を補足することができ、また現役若手を中心とした研究者のネットワーク構築が果たされた。 本研究の実体的側面を構成する、中世異端学文典のテキスト解析については、発展的な見直しが行われた。本来予定していたアナログの入力・分析作業を見直し、より実質化・合理的な手法が可能であることが判明した。これは国際的な交流によって順次得た知見であり、写本のデジタル化、テキスト入力および分析にまつわるソフトウェアの進歩、および公開されているデータベース検索機能の性能向上は、中世文献研究における分析の高度化・高速化をもたらしている。この体制を第二年度より急きょ取り入れるべく、テキスト解析作業についての研究プランを見直すこととした一方で、本研究の理論的側面である、国際学界の動向精査を重点化した。 また外国滞在期間に行う調査が一部先送りになっている。中東の政情不安に端を発する東欧圏・トルコ共和国の政治的混乱(難民移動・クーデタなど)のため、現地における協力を得られず、時期を改めることになった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に得られた知見およびネットワークを適用しつつ、研究計画書に従った文書テキスト解析の作業をすすめていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
もともと主に旅費として計上されたもの、すなわち2016年8月に国際学会(セルビア共和国ベオグラード)に参加したのち、東欧諸国とくにボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア、ブルガリアにおける資料調査を現地における専門研究者とともに展開する予定であったが、中東シリアに端を発するトルコおよび東欧諸国における政情不安のため、専門家の協力を仰げずに活動をとりやめた。
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次年度使用額の使用計画 |
主に旅費および物品費(資料費)として計上する。調査対象の資料についての情報を収集した結果、閲覧・複写の段取りを整えれば電送他の代替手段での資料入手が可能と判明したため、経費の一部をこちらに割り当てる。また初年度に予定していた移動を多くともなうスケールの調査ではなく、特定国の学術機関に滞在するかたちの調査に切り替えた形で使用する。
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