研究課題/領域番号 |
16K03119
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
竹本 真希子 広島市立大学, 付置研究所, 講師 (50398715)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ドイツ / 平和主義 / ジャーナリズム / 知識人 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、ヴァイマル共和国期の新聞および雑誌のテキスト分析から、当時の安全保障や平和主義、平和運動についての知識人の見解を分析し、「戦争」「平和」や「安全」といった問題がドイツでどのように受け止められたのか、これらがジャーナリズムと世論にどのように反映したかを検討するものである。とくにヴァイマル共和国期を代表する新聞のひとつである『ベルリーナー・ターゲブラット』紙や、左派の知識人のフォーラムであった週刊誌『ヴェルトビューネ』『ターゲ・ブーフ』誌を扱い、第一次世界大戦や国際連盟、不戦条約、テロリズムなどに関する記事から、20世紀ドイツの平和と安全に関する言説をとらえる。 初年度である平成28年度は、単著『ドイツの平和主義と平和運動 ヴァイマル共和国期から1980年代まで』(法律文化社、2017年)を出版したのが、大きな成果であった。本書は、19世紀末の組織的平和運動の開始からヴァイマル共和国期の史料分析を中心に、1980年代までのドイツの平和主義と平和運動を追っている。とくにヴァイマル共和国期の平和主義の特徴や当時の平和主義者たちの論説の内容について、資料を引用しつつ明らかにしたのが特徴である。本書でとらえたヴァイマル共和国期の平和主義と平和運動をめぐる政治的および文化的状況をもとに、今後『ベルリーナー・ターゲブラット』紙も分析し、ジャーナリズムと平和主義の関係を理解することが可能となる。さらに、同書の成果をもとに、ここでは扱われなかった20世紀ドイツのジャーナリズムでの論説における当時の「安全」意識を取り上げることで、『ベルリーナー・ターゲブラット』紙をはじめとするヴァイマル共和国期のジャーナリズムに見られる「平和」意識をさらに追っていくこととなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である平成28年度は、本研究課題の主要な史料となる『ベルリーナー・ターゲブラット』の分析を進めるため、関連資料やスキャナを購入するなどして研究体制を整えた。また、上述のように、ヴァイマル共和国期の平和主義に関する単著を出版したことが大きな成果であった。本書はすでに歴史学・平和研究の専門家に献本するなどして、研究の内容や手法に関する意見を広く求めているところである。また、平成29年度に行われる研究会等で取り上げられることになっており、ドイツ史研究者をはじめとする多くの人々の意見を聞くことで、今後の研究の発展につなげる予定である。 こうした成果がある一方で、平成28年度は単著の執筆のほか、平和主義の全体像と時代背景についてまとめることに、より多くの時間をかけたため、『ベルリーナー・ターゲブラット』の具体的な記事の拾い出しと分析については、予定よりも少し遅れることとなった。だが、テーマに関する研究成果は得られたため、進捗状況は全体としては「おおむね順調に進展している」と位置づけられる。
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる平成29年度は、『ベルリーナー・ターゲブラット』紙の分析が研究の中心になる。これまで研究代表者が他の雑誌について取り組んできた1926年から1933年の記事を中心に、同紙の戦争や平和に関する記事を拾い出して『ヴェルトビューネ』『ターゲ・ブーフ』らの記事と比較するほか、『ベルリーナー・ターゲブラット』紙に関わった人々について、個々の活動を取り上げ、同紙のヴァイマル共和国期の政治文化に対する影響を検討していく。 またすでに記事の分析を進めている『フリーデンスヴァルテ』誌など、執筆者が重なる同時代の他の新聞・雑誌の分析もさらに行い、『ベルリーナー・ターゲブラット』と他紙との特徴の違いを明らかにしていく。そのためには、関連する資料を所有する図書館(国立国会図書館、京都大学図書館、オルデンブルク大学図書館等)を訪問し、資料調査を行うことが重要となる。 なお、本研究課題は、初年度に引き続き、研究代表者が単独で行うものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進め方を一部変更したため。当初の予定では、初年度にドイツでの資料調査を行うことになっていたが、研究開始後になり、研究対象の全体像をより早くかつ効果的に把握するため、海外での資料調査よりも国内での調査を先に済ませることとし、ドイツでの調査を次年度に行うよう変更した。なお、旅費に予定していた予算の一部を、研究成果(単著)を周知するための献本および送料に使用し、次年度に本研究課題のテーマや方法などについてドイツ史、平和研究史およびその他の歴史研究者の意見を広く問うための準備とした。
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次年度使用額の使用計画 |
初年度に行う予定であったドイツ(オルデンブルク市オルデンブルク大学図書館など)での資料調査を、平成29年度冬に行うこととする。
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