本研究課題の成果をまとまった形で発表すべく、著書の出版企画の準備を進めるとともに、執筆のための史料の精査を進めた。 これと並行して、ソ連の歴史的な経験を再確認し、「民主主義 = 自由民主主義」と意識されがちな今日の状況において社会主義的民主主義というもう一つの民主主義(= 非自由主義的民主主義)の可能性を再検討する作業を続けた。 付言しておけば、社会主義的民主主義の可能性を再検討するのは、いわゆるソ連擁護論(「ソ連にもよいところはあった」)の類ではない。社会主義計画経済はもはや発展途上国にとってさえモデルとはなり得ないが、経済格差の深刻なまでの増大とポピュリズムの隆盛によって欧米諸国の民主主義さえ脅かされている状況においては、平等を重視した非自由主義的民主主義たる社会主義的民主主義の理念と実態から現状を改善する手がかりを引き出すことができるかもしれないとの問題提起をおこなうための作業であり、「より良い民主主義」をめぐる議論の多様化に貢献し得るものと考えている。 この検討作業に資するところがあるのではないかと考え、昨年話題になったヤン・ヴェルナー・ミュラー『試される民主主義』の書評会に二度参加した。 ぎりぎりまで史料を渉猟すべく、2019年10月にはモスクワのロシア連邦国立文書館を訪れ、ロシア共和国最高会議幹部会フォンドの史料を閲覧した。 前年度から出版社の承認を得るべく取り組んでいた著書の出版企画が認められたため、今年度の後半は著書執筆のための作業を最優先した。残念ながら今年度中に執筆を終えることはできなかったため、本研究課題の最終的な成果を世に問う著書の刊行を急ぎたい。
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