研究課題/領域番号 |
16K03123
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研究機関 | 大妻女子大学 |
研究代表者 |
上野 未央 大妻女子大学, 比較文化学部, 准教授 (20456271)
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研究分担者 |
佐々井 真知 中部大学, 人文学部, 講師 (90635369)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ロンドン史 / 都市史 / 他者 / アイデンティティ / 外国人 / 移動 |
研究実績の概要 |
近年の中世ロンドン史研究においては、共同体の内部へと研究が深化する一方で、ロンドンと「外」との関係性については十分に論じられてきていない。そのため、ロンドンにやってきた「外国人」に焦点を当てることで、海外との関係性について考察することとした。2016年度は「外国人」に関する先行研究の収集・整理を主に行った。まずデータベースBibliography of British and Irish Historyを利用した文献収集を行った。その後8月には研究代表者(上野未央)、研究分担者(佐々井真知)がそれぞれロンドンで、大英図書館、ロンドン市文書館、ロンドン大学歴史学研究所等に赴いて文献収集を行った。 先行研究の収集に加え、2016年度には当該課題に関する勉強会を2度、研究会を1度開催した。2017年3月に開催した「中世ロンドン史研究会」においては、研究代表者が「中世後期ロンドンにおける『外国人』に関する研究動向と問題点」、分担者が「中世後期ロンドンの『外国人』に関する史料について―現状と展望」という題目で報告を行った。また中世ヨークシャーを専門とする研究協力者に、中世のハルにおける「外国人」について報告していただいた。この研究会の結果、中世イングランドにおける「外国人」研究の問題点が整理されつつある。 また、研究代表者は8月に渡英した際、ロンドン市文書館にて「外国人」遺言書の検認記録がどれほど残存しているかの調査を開始した。研究分担者は、渡英時に史料カタログを用いてロンドンの同職ギルドの現存史料を調査し、複数の同職ギルドの史料に「外国人」に関する記述があることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究動向の整理は順調に進展しており、2017年3月には中世ロンドン史研究会を開き、その結果を報告した。代表者は「中世後期ロンドンにおける『外国人』に関する研究動向と問題点」、分担者は「中世後期ロンドンの『外国人』に関する史料について―現状と展望」という題目で報告を行った。同研究会では、中世のヨークシャーを専門とする研究者にも報告をお願いし、ハルの歴史と「外国人」との関係について報告していただいた。これは、ロンドン以外の都市との比較の視点を大切にしながら、研究をすすめるという当初の計画に沿ったものである。 研究文献の整理からは、最近では「外国人」商人に関する研究だけでなく、職人や使用人など、より幅広い層の人々を含む「外国人」という枠組みへの関心が高まっていることが分かった。特定の個人や地域に焦点を当てた論文も増えてきている。今後も、商業活動に限定されない「外国人」の活動について検討していく必要があるだろう。また、3月の研究会での議論の中で、「外国人」の出身地ごとの特徴を明らかにしていく必要性も指摘された。今後の研究の方向性を考えるうえで有益な研究会となった。 また研究代表者は2016年8月の渡英の際に、先行研究の収集に加えて、「外国人」の遺言書に関する調査を開始した。遺言書史料の写真撮影も行った。研究分担者は、当初の計画では2016年度には王権による「外国人」への対応についての調査を開始することとしていた。しかし、文献整理を通じて、都市当局の史料にどのように「外国人」が現れるのかを検討することが、「外国人」とロンドンの人びととの接点を明らかにするうえでは優先課題だということが判明した。そのため都市における「外国人」に関する史料群の整理を行い、その成果を論文として公表した。
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今後の研究の推進方策 |
2016 年度の成果を踏まえて、研究代表者は、先行研究の動向をまとめた論文を発表する。その際、ロンドンに定住していった「外国人」だけでなく、ロンドンを拠点の一つとして移動していた人びとに関する研究もおさえる。また、研究代表者は「外国人」の遺言書の収集・解読作業に着手する。研究分担者は、2016年度に行った史料群についての調査結果を踏まえ、ロンドンの人びとと「外国人」との関係性が具体的に明らかになると思われる、ロンドン市当局による史料群や同職ギルドの史料群に絞って検討を開始する。ロンドン市当局の史料からは、ロンドンの人びとと「外国人」との間に起こった問題とその解決方法について検討できると考える。また、同職ギルドの史料からは、従来の研究で注目されがちであった商人の「外国人」ではなく職人としてロンドンに定着しつつあった「外国人」について、同職ギルドが直面した問題とそれへの対処方法が明らかになると期待できる。これらの調査に関わる文献および史料収集のため、研究代表者、研究分担者ともに渡英して調査を行う。以上の作業により、本研究課題の最終年度である2018年度に、ロンドンに移住した「外国人」や、ロンドンに短期間滞在した「外国人」について、活動内容およびロンドンの人びととの接点の見取り図を示すことが可能になる。 また、2016年度に引き続き勉強会を開催して情報交換を行うことで、 2018 年度に予定している学会発表の準備をすすめる。「中世ロンドン史研究会」も開催し、研究の途中経過について口頭報告を行う。この研究会では、中世ヨーロッパの他都市における「外国人」の存在態様と比較するため、専門家に講演を依頼する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究協力者へ支出した旅費について、当初の計画よりも安価になった。研究協力者が安価なチケットを購入することができたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の進展にともない、購入すべき書籍が増えてきたため、物品費として使用する。また2017年度には研究会に講師を招くため、講師の旅費および謝金として支出する。
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