本研究では、(1)皇帝オットー3世(980-1002年)の「ローマ帝国の改新」政策によるヨーロッパ=カトリック世界の再編・拡大の試み、(2)紀元千年前後の時期における終末論の高揚、という2つの問題について、双方の相互影響関係の解明を研究対象とした。 3年目の研究では到達したのは、オットーが996年の皇帝戴冠以降、折に触れておこなった異例とも言える数々の瞑想的・禁欲的な贖罪行為、イタリア、ポーランド他への贖罪巡礼、隠修士たちへの精神的傾倒、カール大帝崇敬とアーヘン新司教座構想、そして「ローマ帝国」を基盤とする東部ラテン=キリスト教世界の再編・統合。これら一連の行動、あるいは「ローマ帝国の改新」という政治的構想の背後に、「終末論」の思想的影響と、それに対する反応を読み取ることが可能である、との認識である。ただし、19世紀以降喧伝されてきた「紀元千年の恐怖」なるものは、あくまでも近代の研究者によって構築された「神話」であった。 その成果は、①三佐川亮宏『紀元千年の皇帝-オットー三世とその時代』(刀水歴史全書、95)(2018年6月)に、教養書という形でまとめた。また、②三佐川亮宏「メールゼブルク司教ティートマル(1009-1018年)と『年代記』-人と作品」は、本研究課題の中心をなす大部の叙述史料の紹介であり、①の執筆と並行して進めた翻訳の「解説」に相当する部分である。『年代記』の下訳は既に完成しており、科研・研究成果公開促進費の交付を申請し、近々刊行したいと考えている。 最後に、本研究に先行し、その前提となった『ドイツ史の始まり―中世ローマ帝国とドイツ人のエトノス生成』(創文社 2013年)が、2018度第108回日本本学士院賞を授与され、授与式は、6月25日に日本学士院で挙行された。
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