研究課題/領域番号 |
16K03138
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
前川 一郎 創価大学, 国際教養学部, 教授 (10401431)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 歴史認識 / 植民地主義 / イギリス史 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、イギリス政府が今日まで、植民地支配がもたらした苦痛や被害に対する謝罪や補償(「植民地支配責任」)の求めに応じようとしてこなかった背景には、かつて「文明化の使命」といわれた支配理念(近代西欧的理念)は決して否定しない、この国特有の歴史認識があったとの認識に立ち、その論理と成立過程を明らかにし、イギリス現代史の特徴を考察することにある。 以上の研究目的のもと、前年度に行なった先行研究を整理をふまえて、平成29年度は、認識の論理構造に対する考察を深めるように努めた。とりわけ、かつての植民地支配国のあいだに、植民地主義の過去に対する特異な「二重思考」がみられる点に着目し、これを検討した。ここで事例を詳細に記す余裕はないが、たとえば、激しい応酬の果てに植民地主義の被害に対する謝罪と補償を拒否した2001年国連反人種主義・差別撤廃世界会議の議論のなかに、またはコンゴのルムンバ暗殺の関与を認めたベルギー政府のcourageを称賛し、肝心の植民地主義の過去をめぐる議論を棚上げする欧州各国世論のなかに、あるいはケニア独立闘争時の拷問被害への謝罪を拒み、「未来の協力と友好」のために裁判可能な事例に限り補償金支払いに応じた英国政府の対応のなかに、植民地統治下での個別犯罪には配慮を示し、一定の状況下で謝罪や補償に応じるものの、植民地主義全体の歴史の意義については不問に付す「二重思考」が認められる。かつての植民地支配国、とくに欧米諸国は戦後国際秩序の担い手となるのだから、この「二重思考」はそのまま国際社会の意思として受け入れられてきたといえよう。 ここでいう「二重思考」を英語でどう表現するか自体が課題である。ここでは、さしあたり「Selective Thinking」と表現し、2017年7月にパリで行われた国際シンポジウムにて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで、研究はおおむね順調に進展している。先行研究の整理をふまえて、概念的検討と事例研究に以降している(今年度はとくに前者に注力)。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、さらに概念的検討や歴史認識をめぐる方法論の考察に加えて、事例研究(歴史認識が具体的な政治に反映された様相)を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年7~8月に予定している米国海外出張費を計上したため。
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