本研究の目的は、イギリス政府が今日まで、植民地支配がもたらした苦痛や被害に対する謝罪や補償(「植民地支配責任」)の求めに応じようとしなかった背景には、かつて「文明化の使命」といわれた支配理念(近代西欧的理念)は決して否定しない、この国特有の歴史認識があったとの認識に立ち、その論理と成立過程を明らかにし、イギリス現代史の特徴を考察することにある。 昨年度から引き続き本年度においても、イギリスの歴史認識の論理構造を検討してきた。その結果、イギリス政府が過去の植民地支配の歴史に関する責任についてなんらかの態度の表明を求められる際には、①植民地の歴史においてはたしかに「恥ずべき」出来事があり、それは認めなければならず、そこに自責の念を禁じ得ないわけではないが、②とはいえイギリスの植民地統治は基本的には「良き行い」であった(「恥ずべき」出来事はあくまでも個別の事例に過ぎず、これらをもってイギリスの植民地統治の歴史全体を否定するわけにはいかない)という、いわば二重思考が認められる点を検討してきた。こうした歴史観が、歴史教科書やメディアを介して、現代イギリスの国民に広く受け入れられてきた点も、複数の歴史教科書の通時的な検討に加えて、欧米およびアフリカ等で用いられた歴史教科書との比較を通して考察してきた。 本年度は、こうした研究成果を論文として総括する作業を進めた(近々に専門誌に投稿予定である)。加えて、本研究によって得られた知見をベースにより大きな歴史認識論を展開するために、共同研究のかたちでの発展を模索し、現在、学際的な研究チームを構築しつつある。
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