研究課題/領域番号 |
16K03139
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研究機関 | 敬和学園大学 |
研究代表者 |
丸畠 宏太 敬和学園大学, 人文学部, 教授 (20202335)
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研究分担者 |
鈴木 直志 中央大学, 文学部, 教授 (90301613)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 軍隊と都市 / 兵士の日常 / 兵役義務 / 近代移行期 / ドイツ |
研究実績の概要 |
本研究ではプロイセンの都市ハレを事例として、①連隊駐屯都市における軍隊と地域社会の交わり方、②兵士のメンタリティと自己認識の2点に重点を置いて、生活空間から近代移行期における軍隊と地域社会の関係を考察することを、中心課題としている。 平成29年度は、鈴木がハレ駐屯軍で兵士となったF.C.ラウクハルトなる人物の自伝を軸に、18世紀の兵士の実態を兵士目線から明らかにする論文を発表した。これは、28年度に丸畠がF.W.ハックレンダーなる人物の自伝を手がかりに19世紀前半期の兵士を描いた論文と対をなしており、近代移行期の兵士像とその変遷、さらには彼らから見た駐屯地での軍隊と市民社会の関係の一端を明らかにできた。 兵士が市民社会と軍隊でどのような経歴を経てきたかを分析・考察することは、兵士が何者かを社会全体の中で位置づけるための重要な作業である。この点に関しては兵籍名簿と徴兵検査の基礎文書である兵事史料がその中心をなし、過去2年間ハレ、デッサウ、メルゼブルクの各文書館で18,19世紀の主要な文書を収集できた。30年度はこれを整理・分析し、いくつかの論文で成果を発表する。 都市社会と軍隊の交わり方は、軍隊をつうじて国民的なものが市民社会に浸透する様子を具体的に考察する上で不可欠の視点である。この点について必要な史料は、当時の新聞・雑誌と戦士協会(在郷軍人会)の活動記録である。これらを紐解くことにより、軍隊が都市社会でいかに国家をシンボライズしていたかが理解できる。これらの史料の収集・分析は29年度までに実施できなかったので、30年度に取り組む。 本研究で得た知見を他の地域と比較する枠組みづくりの一環として、日本史をはじめとする他地域の研究者と共同の発表の場を設け、今後の研究展開の準備作業に入る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ハレ市立文書館とデッサウ市州立文書館はすでに平成28年度に利用していたので、作業はスムーズに行えたが、その間に当初予定になかったメルゼブルク市州立文書館に19世紀の兵事史料があることを知り、29年度は新たな文書館作業が加わった。メルゼブルクでは19世紀前半期の現地駐屯部隊の兵籍名簿という、滅多に見られない史料を発見する成果を上げた。シュトゥットガルト市立文書館では、ハックレンダーの書簡の現物を閲読、その一部を複写することができた。 日程の関係で、予定していたマクデブルク市州立文書館訪問は実現しなかった。しかし、軍隊と市民社会の接点として重要な戦士協会(在郷軍人会)に考察のメスを入れるには、ここでの史料収集は不可欠であり、これは次年度繰り越しの課題である。ポツダムの軍事史・社会科学センター図書館には予想以上に多くの関連史料があり、当初予定していた雑誌記事収集も含め、29年度中に作業を終えることができなかった。ハレ駐屯軍の連隊史に十分取り組むことができなかった。そのための追加史料収集も行う必要がある。 これまでに十分な史料収集ができたが、29年度までにこれを整理することが十分にできなかった。30年度はパートを雇ってこれを挽回する予定である。 とくに丸畠が、勤務校での役職業務といくつかの研究会、学会での報告等に追われたため、ゲスト研究者を招いての研究会開催する機会が持てなかった。これも30年度の課題である。すでに報告の候補者は絞っている(今後の研究の推進方策参照)。できれば2名の研究者にお願いしたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに収集した史料の整理とデータ化、手書き史料の一部活字化などを体系的に行うため、専門知識のある安藤香織氏(中央大学非常勤講師)をパートとして雇い、整理に当たってもらう。期間は4~6月、10~12月の6ヶ月間を予定している。作業場所は中央大学文学部鈴木研究室とする。 6月中に平成30年度の史料収集・整理と他分野研究者の研究会への招聘、さらに成果発表の仕方などについて2人で討議する。場所は新潟を予定している。 8月中旬から9月にかけて、丸畠がドイツ出張を行う。ポツダムの軍事史・社会科学センター図書館では『兵士の友』誌で未見の巻を中心に、新たに所蔵が確認されたいくつかの文献・史料についても閲読・複写する。ベルリン州立図書館では所蔵の連隊史を中心に、重要文献を閲読・複写する。ハレ市立文書館ないしハレ大学図書館では、19世紀に刊行された地域新聞を渉猟し,軍事に関わる記事を収集する。デッサウ州立文書館分館では昨年度見落としていた史料の収集に当たる。以上に加え昨年度果たせなかった課題として、19世紀末以降の社会の軍事化考察に欠かせない在郷軍人会史料をマクデブルク州立文書館で収集する。なお、鈴木は他の研究費でドイツ出張を行うため、以上の一部については今年度も共同作業で効率よく仕事をこなす。 秋から冬にかけては、異分野の研究者に軍隊と都市の社会史に関する報告をお願いする。今後の比較研究の視野を広げるために、日本近代史など西洋史以外の分野を専攻する研究者にお願いする。予定しているのは日本近代史の松下孝昭氏(神戸女子大学)と西洋史の宮崎揚弘氏(慶應義塾大学名誉教授)で、そこでの討論をもとに論文作成に入るとともに、西洋史の枠組みを超えたつぎの共同研究の枠組みを模索するために、2月には最後の研究集会を新潟で行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」および「今後の研究の推進方策」の欄にあるように、平成30年度に丸畠がもう1度ドイツ出張で史料収集する必要が生じため、29年度予算を少しでも多く繰り越すようにした。また、当初予定になかったが、30年度、中央大学で史料からのデータ作成にパートを雇うことになったので、鈴木はそのために少しでも多くの繰越金を残すようにした。
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