本研究の課題は、おもにプロイセン軍駐屯都市ハレを具体例に、①連隊駐屯都市における軍隊と地域社会の交わり方、②兵士のメンタリティと自己認識の2点に重点を置いて、生活空間から近代移行期における軍隊と地域社会の関係を考察することである。 ①について、平成30年度はデッサウ文書館で18世紀の兵籍簿とドイツ帝国期兵事史料、ハレ文書館で19世紀中期の兵事史料で前年度までに収集できなかったものを入手した。鈴木の業績はこれらの史料を元にしており、18世紀ハレ駐屯軍の社会構造を詳細に分析し、他地域を事例とした従来の研究と比較することで、兵員数、兵役期間、兵士の社会構成などさまざまな点で定説の再検討が必要なことを明らかにした。 ②について、30年度は前年度までに引き続き『兵士の友』誌複写を行い、これを元に丸畠は、国民国家黎明期の兵士の軍事的メンタリティに貢献した同誌編集者L.シュナイダーについて、論文を執筆中である。またその中で、19世紀の草の根軍事化に果たしたF.ハックレンダーとシュナイダーの共通点を明らかにする予定である。なお、複写した同誌1838~81年分については、30年度に安藤香織氏の協力ですべての記事の目次データを作成した。 31年2月23日には、日本近代の都市と軍隊の関係に造詣の深い松下孝昭氏(神戸女子大学)に研究会で報告いただき、この分野について日本史研究から多くの知見を得られただけでなく、日本史と西洋史の比較枠組み構築の可能性についても議論できた。 今後の課題としては、丸畠が執筆中の『兵士の友』誌に関する論文を完成させ、それを元に2人で同誌の内容を検討すること、丸畠が担当する19世紀駐屯軍の社会構造と鈴木が担当する18世紀のそれとを比較する枠組みを構築することが挙げられる。
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