研究課題/領域番号 |
16K03143
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
穐山 洋子 同志社大学, グローバル地域文化学部, 准教授 (10594236)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ナショナル・マイノリティ / 移動型民族 / マイノリティの排除 / 市民的規範 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は移動型民族の子どもが強制保護され定住生活を強制された背景にある思考や論理を明らかにし、市民社会がそれらをどう受け止めていたかを考察することである。2016年度は、以下の二点について研究を進めた。 1.「移動型民族」がスイスのナショナル・マイノリティに認定された歴史的経緯と要因に関して先行研究の精査と考察を行い、移動生活者が発見され、一つの社会的集団(移動型民族)として構築された歴史的経緯を明らかにした。この研究成果を「スイスにおけるナショナル・マイノリティ『移動型民族』の文化的同化の強制」、『GR―同志社大学グローバル地域文化学会紀要―』(第7号、2016年10月)として発表した。そして、この論考に移動型民族の現在の問題に関する考察を加えた研究成果を、2017年3月のスイス史研究会第85回報告会にて発表した(國學院大學開催)。 2.スイスとドイツで史料調査を行い、移動型民族の子どもの強制保護を行った団体の機関紙と当時の優生学に関する一次、二次史料の収集を行った。今年度は強制保護を行った団体の機関紙における近代諸科学とナショナリズムの影響について考察した。まず、近代諸科学の影響については、確かに遺伝学、優生学の影響は認められるが、「さすらい癖」という「悪質な」性質は時宜にかなった適切な環境や教育を通じて改善できると考えられていた。治療教育学という新しい学問の影響も受けていたが、移動型民族の子どもには精神病患者や知的障害者が一定数含まれると主張され、彼らは「教育困難者」の烙印を押された。もう一点のナショナリズムの影響に関しては、今回調査した史料にはその直接的な影響は見られなかったが、市民的規範に関する表現は散見された。市民的規範はスイスの社会や文化の影響を受けているため、これをどう解釈するかを今後の課題としたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度に計画していた、主な先行研究の精査と考察はほぼ終わり、スイスとドイツでの史料収集でも予定していた史料を収集することができた。また、収集した史料の分析にも着手し、研究は計画通り進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は、ドイツのツィゴイナー政策の影響と「外国人過多」という概念の影響をおもに検討する。また、新たに福祉政策というコンテキストからの研究も進める。スイスでは市民権と密接な関係にある救貧の問題と市民的規範としての定住生活の問題の双方において、移動型民族が問題視された。先行研究では、おもに定住生活を送らないマイノリティ・グループに対する文化的同化の強制(子どもの強制保護を通じた定住生活の強制)という側面で研究が進められてきたが、近年、福祉政策のコンテキストからの研究が進められている。それには、スイスでは子どもの強制保護という措置が貧困家庭の子ども、婚外子、シングルマザーの子どもに対しても行われていたことが背景にあり、これらに関する歴史学的研究成果が発表されるようになったことがある。本研究でも、福祉政策という視点も研究対象とし、子どもの強制保護の他の事例との比較も視野に入れて研究を進める。
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