研究課題/領域番号 |
16K03146
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
中谷 功治 関西学院大学, 文学部, 教授 (30217749)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | テマ / 小アジア / 属州 / コンメルキアリオス / 印章 |
研究実績の概要 |
これまでに実施した軍事を中心としたテマ研究の成果をふまえて,行政機構としてのテマの形成と実態の解明に向けて研究を開始した。まず,7~8世紀前半における地方行政の実態を把握するため,J・ホルドンの2016年の最新研究(『死滅することのない帝国 東ローマ帝国のパラドクス 640-740年』)の検討から開始し,それと同時に文献史料以外で唯一まとまった形で地方行政についての資料となるコンメルキアリオス(さらにコンメルキアやアポテケも)に関連する印章史料についての基礎研究,とりわけW・ブランデスによる行政史研究(『危機の時代における財政 6~9世紀におけるビザンツ行政の研究』(2002年))などを適宜参照に考察した。 以上からは,7世紀後半におけるコンメルキアリオスの役割変化とレオン3世治下の730年代の行政システムの一応の安定の可能性が示唆されたが,研究はいまだ仮説段階にとどまっており,8世紀末から9世紀前半の状況をも加味して考察する必要性が生じた。 以上の研究と並行して,当該する時代についての関連研究を探るため,夏季にドイツ連邦共和国のベルリン市に出張し,フンボルト大学およびベルリン自由大学の図書館での文献調査を実施した。また,広く時代背景を把握するため,福岡大学の太記祐一氏(ビザンツ建築史)・西村道也氏(ビザンツ貨幣史),山口大学の南雲泰輔氏(後期ローマ帝国史)から最近の研究動向や関連文献についての助言を受けた。 なお,上に見たように,9世紀の政治情勢を別途より詳しく把握する必要性が生じたため,昨年刊行した著書『テマ反乱とビザンツ帝国』の第9章で論じた「スラヴ人トマスの反乱」についても再度史料を精読しつつ,海外での最新研究の批判的検討に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初に課題として設定した7~8世紀の帝国行政の印章史料を中心とする分析に加えて,9世紀前半の帝国の情勢分析の必要性が生じた。以上に対応した研究を並行して進めて,その成果をまとめた論文「ふたりの叛徒トマス―9世紀ビザンツの大反乱をめぐって―」(『人文論究』66巻3号)の執筆に一定の時間を要した。このため,初年度の研究予定を2年目にも継続させることになった。ただし,9世紀についての考察は,本研究課題の3~4年目に実施する予定にしていた内容と重複しているので,研究全体としての進捗状況は今後調整が可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に引き続き,J・ホルドンの最新研究とW・ブランデスの基礎研究の検討を継続させ,考察を深化させたい。以上に加えて,地方における行政単位としてのテマの具体的な成立過程を文献史料や印章史料から探っていく必要がある。とりわけ,その際に注目されるのが古くから改革者として注目され,さらに最近になった再び注目を集めているニケフォロス1世の治世(802-811年)で,彼の施策と地方行政制度の確立との関係を明確化させる必要がある。また,国際的なビザンツ研究の中心のひとつであるダンバートン・オークス研究図書館(アメリカ合衆国,ワシントンDC)に出張して最新の研究動向の把握にも努めたい。
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