本研究課題の分析対象の中心の一つはフェルモ国立古文書館所蔵の史料群であり、この調査を2018年度に集中的に進めたが、その間に同文書館で未整理になっていた史料が文書館員の作業により確認された。この調査を2018年度中には部分的にしか進めることができなかったため、期間延長を行い2019年度に再度渡航し同古文書館で調査を行った。当該史料群は14世紀にフェルモ市の財務に関わった人物の一群の帳簿群であり、この分析が中世イタリア経済史と政治史に貢献しうる可能性が浮上したと考えている。フェルモ地域はローカルマーケットのネットワークとその外部の大中心地との接続に一つの特徴があり、これまで十分な注意を払われてこなかった中世イタリアのマルケ地方の中規模中心地の歴史的役割を再検討し政治史と関連づけて評価する手がかりとなりうると考える。この史料の研究を現在継続中であるが、本研究計画の末期に古文書館で確認された史料であり、かつ一定の分量があるため、研究期間内に終了することは困難であった。今後も研究を継続し、全体を総合したいと考えている。 他方、同フェルモ国立古文書館所蔵の14世紀後半の反乱に関連する文書の研究を継続的に行い、フェルモと近隣地域の財政と反乱の関連についての一定の事実を明らかにした。この成果の発表も含め、当初、2019年度にイタリアの研究者を招聘しての学術集会を行う予定であったが、招聘予定であった研究者の校務上の都合により実施できなかった。財政と反乱については研究成果をまとめ、2020年に開催される西洋中世学会大会で口頭報告を行う予定である。
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