研究課題/領域番号 |
16K03148
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研究機関 | 旭川工業高等専門学校 |
研究代表者 |
根本 聡 旭川工業高等専門学校, 一般人文科, 准教授 (80342442)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 近世スウェーデン / 対外政治 / グスタヴ・アドルフ / アクセル・オクセンシェーナ / 銅山 / 資源動員 / 武器製造 / 財政軍事国家 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、昨年度に引き続き近世スウェーデンの対外政治について、特に17世紀前半の対デンマーク政治を中心に宰相アクセル・オクセンシェーナの政策立案について考察を深めた。そのさい主として1610年代の対デンマーク政治の主要問題であるエルヴスボリ要塞の賠償金問題に焦点を合わせ、オランダからの借金、それにともなう銅山開発の実態について、調査研究を進めることによって、スウェーデン銅貿易の国家財政に及ぼした影響についての分析を試みた。現在のところ、1610年代のスウェーデン銅の意義についての論文を執筆中である。ただし、当該問題の解明はスウェーデン国家財政に関する研究史の整理を必要とするため、同時に同国財政史に関する概観を俯瞰することが不可欠である。このため中近世スウェーデン財政史序説の執筆も計画している。さらに、以上の問題群の解明にあたって、具体的な方法論を述べるならば、それは、ヤン・リンデグレンによる権力国家の資源論から国家財政研究史にあたりつつ、マッツ・ハレンベリによる賃貸借制度論をも援用しながら、当時のスウェーデン経済のメカニズム、すなわち土地制度と税制に規定された財政軍事国家形成過程の解明を行なうことである。そこで、グスタヴ・アドルフ治世期(1611~32年)に、いかにして戦争遂行のための資源と資金を国内外から調達したかという、資源動員の問題の解明を目指した。これにくわえて、武器製造と軍事遠征事業へのその調達という観点から、ヨーロッパ学界における新しい軍事史研究動向にも目を配り、本研究をさらに深く追求しているところである。その新しいテーマとは、武器あるいは兵器である大砲や帆船(艦隊)に関する研究だけでなく、戦争を可能にした現実の資源、すなわち弾薬の問題の解明である。銃につめる弾薬をどのように調達したかは、今後の研究の進展を決める大きな問題であることが判明している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
遅延の理由は、昨年とほぼ同じように、主に次の五点があげられる。第一に、文献・史料の入手の困難性がある。特に史料集の購入が非常に難しい。第二に、軍事財政史研究の層の厚さ、膨大な研究の蓄積が壁となっているということがあり、さらにここ数十年ますますその厚みが増している点にある。第三に、二十世紀、とりわけ第二次世界大戦後のスウェーデン学界における近世史研究に偏よりがあり、また個別性が高かったため、国制史の問題についても、経済史の問題についても、研究史の整理をするにあたって、両者を有機的に関連づけることがかなり困難であるという点がある。しかも、第四に、外交史研究が等閑視されてきたため、対外政治の問題を、商業政策や軍事政策に結合することが難しい。むしろ申請者がパイオニアとして、グスタヴ・アドルフ治下の商業政策研究を行なっているという次第であり、この点は当該研究のメリットにもなっていることではある。第五に、本研究が、対外政治を扱っているため、関係する国々が多岐にわたり、英語やスウェーデン語はおろか、デンマーク語やドイツ語にも手を伸ばしているため、本研究が予想以上の時間を要しているということがある。以上、主な理由でも五点をあげることができる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、基本的には、昨年度述べたように、予定通り進めることにしたい。第一に、対ロシア問題と対デンマーク問題を解明し、第二に、エルヴスボリの賠償金問題と、それに関するオランダからの借金および銅山開発ならびに銅貿易の実態解明を行ない、第三に、王国宰相アクセル・オクセンシェーナの対外政治に関する立案や意図を史料にもとづき解明するという方向である。そのうえで、スウェーデンがドイツに三十年戦争を参戦した原因を解明するという課題と、スウェーデンが戦争資金調達の問題と武器製造の問題をどのように克服して、三十年戦争に勝利をおさめることができたのかという問題の分析に入っていくことにしたい。そのさい、新たに浮上してきた問題は、大砲や銃につめる弾薬の調達の問題である。最近新たな潮流となっている外交史研究(主に対ブランデンブルク政治)だけでなく、このような武器および弾薬の調達の問題についての分析も射程に入れることによって、さらに本研究を充実させることができるという展望を得ている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、当該年度内に物品、すなわち図書の期限内納入の見込みがたたなかったためであり、さらにいえば、その図書代が次年度使用額を上回るため、利用できる費用を有効に利用しようと考えたためである。
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