研究課題/領域番号 |
16K03149
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鹿又 喜隆 東北大学, 文学研究科, 准教授 (60343026)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 使用痕分析 / 石器 / 縄文時代草創期 / 縄文時代前期 / エクアドル |
研究実績の概要 |
石器使用実験では、象牙や骨、角、粘土、貝を対象とするデータが加わった。基礎データの蓄積が確実に進んでいる。 出土遺物の使用痕分析は、新潟県田沢遺跡の縄文時代草創期の尖頭器やトゥールを対象に実践され、成果を公表した(『Bulletin of the Tohoku University Museum』No.17)。欠損尖頭器の二次的利用の様相など、新たな知見を得た。また、九州・沖縄の4遺跡における縄文時代前期の石器の機能に関する比較研究を実施し、公表予定である(『日本考古学』第45号)。曽畑式土器文化圏の九州と沖縄における全く異なる石器製作と使用の実態が明らかになった。さらに、山形県羽黒神社西遺跡の縄文中期の打製石斧・石箆を対象とした使用痕分析を実施した。平成31年度末に発掘調査報告書の刊行に合わせて、報告する予定である。 遺跡の調査データに関しては、宮城県野川遺跡での発掘調査において、石器の出土状況に関する三次元測量、産状計測のほか、石器集積遺構や竪穴住居跡などの遺構出土物のデータを収集することができた(『平成29年度宮城県遺跡調査成果発表会 発表要旨』)。遺跡の年代等に関する基礎データも追加できた。 海外の分析では、エクアドルのレアルアルト遺跡出土の石器について、分析を実施した。同時に、現地で行われた国際シンポジウム"Modelos alternativos de desarrollo cultural de las sociedades Costeras"にて研究成果の発表をおこなっている。今後、エクアドルやロシアの共同研究者と一緒に研究成果を公表する見込みである。2016年度までの成果については、日本考古学協会にて総括的な成果を発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基礎実験では、象牙や骨、角、粘土、貝を対象とする新たなデータを追加できた。特に水分(潤滑)の有無のよるポリッシュの様相の違いに注目しており、トライボロジー研究の基礎データとなる。また、分析対象に応じて実験条件を設定しているため、不足のない形で実験が進んでいる。 遺物分析では、縄文時代草創期から中期にかけての資料を対象に、蓄積が進んでいる。隆線文土器に伴う石器の機能は、全国的にも分析事例が少なく、貴重である。また、九州や沖縄の縄文石器の分析事例も少なく、新知見をもたらした。これらの分析対象の石材は多様であり、硬質の頁岩、軟質の頁岩、黒曜石、チャート、石英が含まれる。これらの分析対象石材のバリエーションが、今後の実験条件に加えられる見込みである。 発掘調査に基づく研究では、宮城県野川遺跡において、様々な出土状況に対応した基礎データが蓄積されている。遺構出土と包含層出土では、その表面状況にも違いがうかがえる。また、自然営為によって移動した石器が確認されており、原位置に近いものとの差異に注目できる。 海外の研究では、エクアドルの調査と分析が進んでいる。南米の土器出現期の生業に関わる新たな情報を得ることができた。また、新大陸におけるロクロ利用に関する遺物と観察結果を得たことは大きな成果である。なお、2017年が日エクアドル外交樹立100周年であり、当研究成果が例えば笠間日動美術館の企画展パネルで紹介される等の付加的な効果もあがっている。 研究成果では、学会発表として国内学会で3回、国際シンポジウム1回(エクアドル)があった。論文は校正済みを1本を含めて4本あり、2本が査読誌である。うち1本は機関リポジトリに掲載される見込みである。
|
今後の研究の推進方策 |
最大の課題は、実験研究の成果を体系的に総括することである。平成2019年度までの継続課題であるが、2018年度内にレーザー顕微鏡による基礎的な分析などを進めて、結果をまとめておく予定である。特にポリッシュタイプの客観化に向けた取り組みが重要であり、測定可能な使用痕光沢をできるだけ多く作成することを重視していきたい。 方法論の点では、フューリスティック・アプローチの実践を、2018年度内に実施し、その有効性を明確にしたい。その点では、使用痕分析を終えた山形県羽黒神社西遺跡の打製石斧・石箆の製作と使用に係る実験をおこない、物理現象としての使用痕の形成のみならず、使用の動作や効率性などの主観的評価を加えて検討していきたい。そうした実験を蓄積していくことで、経験知を豊かにすることができる。 遺物研究では、詳細な発掘データを得ることができた野川遺跡の分析を進めたいきたい。個々の石器の機能のみならず、バイフェイス戦略にともなうリダクションのプロセスや、遺跡形成過程との関係、関連遺跡との比較研究を通して、当該期の石器の使用を巡る技術組織を明らかにしたい。また、宮城県薬莱山No.8遺跡の分析を予定しており、接合資料に含まれる同時性の高い資料の中での石器使用行動と、動作連鎖を明らかにしたい。そのほかに、本学所蔵資料の分析が可能であり、少しずつ進めていきたい。 同様に、これまで実施した使用痕分析の中に、成果が未公表のものが多く残っているので、早期に公表していきたい。特に海外の研究者との共同研究では、リーダーシップを発揮して、早期に公表できるよう原稿の作成を進めていきたい。特にエクアドルでの研究成果については蓄積が進んでおり、2018年度内に外国語の論文を作成し、投稿する予定である。
|