研究課題/領域番号 |
16K03150
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
深澤 百合子 東北大学, 国際文化研究科, 名誉教授 (90316282)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 擦文時代 / 竪穴住居 / かまど / 大麦 / 焼骨 / カレイ / ヒラメ / 炭化付着物 |
研究実績の概要 |
本研究は食文化の文化的継承性を多角的に証明しようとするもので、ひとつの事例として北海道の擦文文化から後続するアイヌ文化への食性の継続を明らかにしている。アイヌの農耕文化は文化的に過小評価される傾向にあるが、実際に発掘調査などから出土する遺物などを検証すると農耕文化的要素を否定することができない。その農耕的要素の出現はすでにアイヌ文化以前の擦文文化に求めることが可能であり、多角的に証明し明らかにするのが本研究の目的である。そのため、擦文文化の食性を明らかにすることが重要となる。今年度の研究では擦文竪穴住居に敷設されるかまどの構造、かまど内部に堆積する粘土、焼土、焼骨、各層の状態を認識明らかにすることで厨房について検討をおこなった。内部堆積層から採取した焼骨の同定、分析は現在進行している。当初、主眼をおいていた炭化栽培種子をはるかに上回る魚骨の椎骨、歯、頭蓋骨、肋骨や小獣骨の出土量から、またその出土状況から、当該かまどで調理され、食されていた具材を明らかにすることが可能となっている。具体的例とし小形魚としてはキュウリ魚科、シシャモ、コマイ、ワカサギなどがあげられる。鮭の椎骨やクロソイ、大形魚のカジキマグロなども考えられる。さらに、頭蓋骨の眼窩からは底生性の魚と判別できるものがあり、カレイやヒラメと思われる。周辺海域に生息する魚種の生態などを考慮し比較検討することで、通年、捕獲可能できることや、特に冬から春に獲れることなどを考慮すると当時の住民の動態が明らかになってくる。厨房施設としてのかまどはその構造から構築技術を解明することができ、特に製作工程の粘泥工技術に注目することができる。食文化を体系的にとらえていくためには、食材の入手から、その加工、調理過程も明らかにする必要があり、厨房施設の構築技術などに付随する側面の検証が必要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
食文化の文化的継承ということから食文化を一連の食体系として捉えてみると、現在までの研究では調理に使用した土器に付着する炭化物の同位体分析から食材として使われたであろう具材の解明をした。しかしその結論は確実に水産資源によるものとまでしか解明できず、具体的な食材を判明するまでは難しい。食材解明は出土遺物の炭化種子の検出、焼骨の検出からはより具体的な具材の存在を明らかにすることができている。ここにきて、使用された、食材が魚の焼骨であることから水産資源であることは明白になった。オオムギなどの雑穀に魚を混ぜたものと考えることができる。具材に関してはさらに分析を進める必要がある。厨房施設についてはかまどが一窯、煙道が住居外に通じてあるなど解明されたが、その存在意義、その遺跡の全体的意義についてはまだ考察がなされていない。
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今後の研究の推進方策 |
今後行う研究は、調理献立、調理方法についての考察、検証が行わなければならない。これは食材の組み合わせ、加熱時間、水加減、火加減などである。吹き土器に付着する炭化付着物は明らかに口縁から吹きこぼれている。焦げやすすではなく吹きこぼれである。吹きこぼれ痕跡をもつ土器の存在比率が多く、吹きこぼれが生じる状態の理解である。推測としてはでんぷん質が含まれる場合に生じるかもしれないという仮説は立てられるが、どの食材の組み合わせなのか、調味料によるのか、何かの隠し味なのか、皮脂かなどの理由を解明する必要がある。研究計画では調理実験を行う予定でいるが、まだその段階にいたらず、実施されていない。縄文土器による調理実験などは他で実施された研究もあるため、そのような調理実験を参考にして、擦文時代を考慮して実施のための詳細な手順と検証の方法をさらに模索したうえで実際に実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
土器を使用しての調理実験がまだ行われていないため。実験のための簡易かまどなどは購入済みなので、器材については問題ないが、屋外で火を使い実験をする必要があるため、実験場所の確保や人材の手配の調整が必要となっている。今年度中に実施したいと考える。
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