研究課題/領域番号 |
16K03151
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
滝沢 誠 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (90222091)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 伊豆半島 / 前期古墳 / 瓢箪山古墳 / 太平洋岸 / 大廓式土器 |
研究実績の概要 |
本研究は、従来ほとんど知られていない伊豆半島の前期古墳に関する基礎研究を推進するとともに、それらの造営を可能にした在地社会の動向を分析し、半島基部に形成された古墳時代前期の政治的拠点と東日本太平洋岸域における広域的なネットワークとの関わりを明らかにすることを目的としている。そうした目的に沿って、本年度は静岡県函南町瓢箪山古墳の測量調査及び地中レーダー探査を実施した。また、本研究の成果と課題について議論するための研究会を開催するとともに、関連資料の調査を実施した。 瓢箪山古墳の測量調査は、2016年の9月と11月に実施した。同古墳の存在は以前から知られていたものの、これまでに本格的な調査が行われたことはなく、長らくその実態は不明のままであった。今回初めて測量調査を実施し、その成果にもとづいて墳丘の復元を行った結果、同古墳は墳丘長約87mの前方後円墳である可能性が高いと判断された。また、その墳丘形態が示す特徴から、同古墳の築造年代は古墳時代前期後半と推定された。なお、後円部頂の中心部には樹木が密生しているため、今回の地中レーダー探査では、埋葬施設に関する十分なデータを得ることはできなかった。 研究会は、研究協力者らの参加を得て、函南町文化センターで計3回実施した。第1回目は7月に実施し、研究の全体計画と本年度の研究計画について打ち合わせを行った。第2回目は、瓢箪山古墳の測量調査にあわせて9月に実施し、現地で墳丘の残存状況について意見交換を行った。第3回目は、本年度の総括として3月に実施し、研究代表者が瓢箪山古墳の測量調査成果について報告するとともに、研究協力者2名が北伊豆地域における弥生時代後期から古墳時代前期にかけての集落変遷や土器編年について報告を行った。また、これにあわせて、函南町来光川遺跡群出土土器の資料調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の重要な調査対象である瓢箪山古墳は、あらたに古墳時代前期の前方後円墳として位置づけられる可能性がある北伊豆地域の古墳である。今回の測量調査の結果、瓢箪山古墳は伊豆半島最大の古墳であることが明らかとなり、その墳形は前方後円墳となる可能性が高いと判断された。また、同じ地域に位置する三島市向山16号墳と比較した場合、前方部の側縁部があまり開かないことから、その築造年代は古墳時代前期後半であろうと推定された。さらに、墳丘の構造については、後円部、前方部ともに西側の斜面を下方に拡張している状況が認められ、西側の側面観を強く意識したつくりとなっていることが判明した。これは、古墳が立地する丘陵の西側に伊豆半島の基部を横断する主要ルートが存在することと関係しているとみられ、今後の発掘調査においては、非対称的な墳丘構造の解明が重要な検討課題となった。以上の調査結果は、これまで詳細な内容が一切不明であった瓢箪山古墳の実態に迫るものであり、本研究の着実な前進を示すものである。 一方、北伊豆地域における集落の変遷について検討を進めた結果、弥生時代後期後半から古墳時代前期前半にかけての集落は、伊豆の国市山木遺跡を中心として面的な分布を示すのに対して、古墳時代前期後半になると、瓢箪山古墳が所在する函南町平井地区に分布が限定される傾向にあることが明らかとなった。また、平井地区最大の集落遺跡である伊豆逓信病院敷地内遺跡から出土した土器の部分的な分析からも、古墳時代前期後半以降における集落の継続性が想定される結果となった。こうした集落再編の動きは隣接地域でも同様に認められ、瓢箪山古墳の造営に結実するあらたな政治的拠点の形成と海岸部から内陸部に通じる交通路の整備に密接な関わりがあるとする当初の仮説は、集落研究の面からも裏付けられつつある。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、本年度の研究によって得られた成果と課題をふまえつつ、伊豆半島における前期古墳の実態解明とそれに関連する集落遺跡の分析をさらに推進していく計画である。 瓢箪山古墳については、その墳丘規模や構造を実証的に把握することを目的として、夏季に約3週間の発掘調査を実施する。そこでは、墳丘裾部を中心に試掘調査を行い、とくに測量調査によって把握された墳丘の非対称構造をより具体的に明らかにしていきたい。また、古墳の築造年代を明確に示す出土遺物の発見にも努めていきたい。なお、発掘調査の期間中には、研究者に広く呼びかけて現地検討会を開催するとともに、地元住民向けの説明会を開催したいと考えている。 集落研究については、瓢箪山古墳の成立に深い関わりをもつとみられる伊豆逓信病院敷地内遺跡の資料調査を重点的に実施する。また、本年度と同様に研究会を開催し、古墳時代前期前半と前期後半における集落分布の変化が、在来系土器(大廓式土器)の拡散経路や外来系土器の流入経路とどのように関連するのかという点について検討を進めていきたい。 これまでの研究により、瓢箪山古墳が築かれたとみられる古墳時代前期後半に大きな画期が想定されるようになったことから、次年度以降は、東日本の太平洋岸域に分布する前期古墳の造営状況についても事例研究を進め、伊豆半島にみられる画期との連動性について検証を重ねていきたい。この点については、東日本太平洋岸域の交流において重要な位置を占める常陸地域を対象とした事例研究にすでに着手している。また、そうした研究に際しては、古墳と集落及び交通路の位置関係が示すランドスケープの変化にも着目していきたい。 以上の活動によって本研究のさらなる深化を図り、次年度の後半にはその中間的な成果を学会等で口頭発表するとともに、学会誌等への寄稿を積極的に進めていく予定である。
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